第158話 近いうちに
この話題は冨岡にとって都合がいい。
さらに冨岡は言葉を続けた。
「俺がしたいのは、まさにそれです」
「それ、と申しますと?」
「貴族でない子どももきちんとした教育が受けられるような環境を作りたいんです。人種も性別も階級も関係なく、学びたい子が学べる環境。生まれの貧しさで将来が閉ざされない状況。人が人に優しくあれる世界。俺が目指すのはそんなところです」
理想。たった二文字で片付けるには大きすぎる未来像だ。平たく言えば、冨岡は世界を変えることを理想として掲げている。
血縁者がおらず、教会で暮らすしかないにも関わらず満足に食べることも出来ていなかったフィーネ。彼女は巨大な氷山の一角に過ぎない。
冨岡が元いた世界よりも明らかに遅れた異世界。弱者を守る法など存在しない、もしくは機能していないだろう。アメリアがしてきた苦労を考えてみれば、それは明らかである。
そんな世界を変えるには優しさの連鎖を作り出すしかない。
冨岡の話を聞いたダルクは、規模の大きさに驚きながらも決して馬鹿にはせず、深く頷いていた。
「人が人に優しくあれる世界・・・・・・ですか。なるほど、きちんとした教育環境が、優しい世界を作り出す。その二つ、直結しているわけではないですが、確かに繋がっておりますな。人が人に優しくあるためには、ある程度の余裕が必要。余裕を生み出すのは安定した生活でしょうから」
「ええ、教育さえ受けられれば、一般市民の生活もより豊かになるはずです。そうすれば生活は安定する。あと、これは押し付けるものではないんですけど、誰かに優しくされたら他の人にも優しく出来るような気がしませんか?」
これは冨岡が源次郎から受け継いだ優しさの連鎖である。
そんな話を優しく聞いていたダルクは、屋台の方から向けられている視線に気づいて、話の途中ではあったが冨岡にそちらを向くよう促した。
「おや、トミオカ様、あちらの女性が」
「ん?」
冨岡が振り返ると駆け寄ろうか、待っていようかと迷っているアメリアが見える。
散々待たせておいて、まだ帰ってきた報告もできていない。慌てて冨岡は手を振る。
「アメリアさん、ただいまです!」
声をかけられたアメリアは、駆け寄っていいんだと判断し髪を靡かせながら冨岡に向かった。
そんな彼女の姿を見ていたダルクは「これ以上はお邪魔でしょうから」と言い残しフォンガ車に乗る。
車の中からダルクはさらに言葉を続けた。
「また近いうちにお話しいたしましょう。旦那様もローズお嬢様もトミオカ様にお会いしたいはずですから、声がかかると思います」
「はい。じゃあ、また近いうちに」
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