第160話 嫉妬?

 歩きながら冨岡は漠然と親子とはこのようなものなのか、と思わず笑みが溢れた。

 源次郎という親代わりの祖父はいた冨岡だが、親子そのものを体験したことはない。もちろん、源次郎と二人で不満に思ったことなどなかった。しかし、改めて疑似親子を体験すると心に響くものはある。


「トミオカさん、どうしたの? なんかニヤニヤしてる」


 フィーネに指摘された冨岡は、少し照れながら首を傾げる。


「そうかな? 別に何でもないよ」

「もしかして、貴族様のお屋敷で何かあった?」


 今、冨岡が表情を緩ませていることとキュルケース家での出来事は関係ない。素直に首を横に振る冨岡。

 だが、アメリアはその言葉に引っ掛かり、冨岡の顔を覗き込んだ。


「そうなんですか?」

「え?」

「もしかしてキュルケース家のご令嬢があまりにも美しくて、思い出してしまったんですか?」

「え?」


 否定する前に冨岡は戸惑う。これほどアメリアが強い口調で話すことは珍しい。


「どうなんですか?」

「確かに可愛かったですけど、今思い出してはないですよ」

「ほら、可愛かったって言ってるじゃないですか。もしかして一目惚れなんかしちゃいました?」


 突然何を言い出すのか、と冨岡は更に狼狽える。


「し、してませんよ。相手は八歳の女の子ですからね」

「あ、八歳・・・・・・すみません、取り乱しました」

「本当に。びっくりしましたよ」


 アメリアが勢いを緩めたところで、フィーネが嬉しそうに口を挟んだ。


「先生はずっと心配してたんだよ。貴族様のご令嬢にトミオカさんが求婚されてたらどうしよう、ってね」

「フィ、フィーネ!」


 慌てたアメリアがフィーネの口を押さえるが、既に冨岡の耳には届いている。


「俺が求婚? ないない、ないですよ。もちろん、貴族様との繋がりは欲しいですけど、あくまで目標を達成するためですからね。求婚されたとしてもお断りしますよ」


 キュルケース家ご令嬢、ローズとの結婚など考えただけでも恐ろしい。どう考えてもホースが激怒するし、絶対に認めないだろう。

 アメリアが何を心配しているのか冨岡にはわからず、彼は意図せず素直な言葉を付け足した。


「今はアメリアさんやフィーネちゃんが一番大切です。俺が何をするにしても二人が悲しむようなことはしませんし、二人が望まないこともしません。だから心配しないでください。ね?」


 その言葉はしっかりとアメリアの心を突き刺したらしく、夜の暗さでもわかるほど彼女は頬を赤らめる。もう一度夕暮れが訪れたのだと勘違いするほどだ。


「そ、それは・・・・・・嬉しいです。ふふっ」

「あ、教会が見えてきましたよ。何だか、帰ってきたって気がしますね」


 教会が冨岡にとっても帰る場所になっているのが嬉しくてアメリアは再び微笑む。

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