第151話 わがまま令嬢

 ホースに続いて夫人もローズに笑みを向ける。


「ええ、ええ、そうよ。私もこうしてゆっくり食事をしたいわ。落ち着いてゆっくり食べましょう。本当に・・・・・・どれくらいぶりかしら。こんなに食事を愛おしく思うのは」

「お父様・・・・・・お母様・・・・・・私・・・・・・」


 二人の言葉を、卵では覆いきれないほどの愛情を受け止めたローズは、自分の心を全て吐き出そうと口を開いた。だが、その途中でホースが言葉を割り込ませる。


「ローズ、寂しくさせてすまなかった。お前の出していた合図に気づけなくてすまなかった。お前は昔からずっと年齢よりも聡い子だったな。そんなお前の優秀さに甘えていたのは私たちだよ。公務の忙しさ、公爵としてあるべき姿などと言い訳をし、お前との時間を中々作ってやれなかった」


 ホースに続く夫人。


「そうね。私も公爵家の夫人としてお茶会や社交の場に忙しく、ローズと向き合う時間を作れなかったわ。本当にごめんなさい。もっとあなたに目を向けるべきだったの。公爵夫人ではなく母として」


 二人の言葉を聞いたローズは思わずスプーンを落としてしまう。いや、スプーンを持つことができなかったのだ。

 両目を押さえるために両手が塞がってしまうのだから当然だ。

 

「ううっ、お父様、お母様・・・・・・ごめんなさい。私・・・・・・私、いっぱいわがままを言ったわ。いっぱい色んな人を困らせたわ。私・・・・・・私・・・・・・」


 これまでの行動を振り返り、泣いてしまうローズ。

 ホースはそんな彼女の肩に手を置いて首を横に振った。


「いや、お前はわがままを言っていない。私たちと一緒に過ごしたいという、当たり前のわがままを言わなかったじゃないか。私たちを困らせまいと我慢していたんだろう。それでも私たちに気づいてほしくて、わがままな令嬢を演じていたんだ。たとえ叱られたとしても、私たちに振り向いてほしくて」


 ローズにとって食事の時間はホースや夫人と過ごせる大切な時間だった。彼女がもっと幼い頃、ホースたちはまだ食事の時間をローズと共に過ごせる余裕があったのだろう。

 それでも少しずつ忙しくなり、食事の時間は短くなっていった。一人で残って食べるのが寂しいローズは急いで食べるようになり、それが『食べるのが早い』と思われていた理由である。

 その内に彼女は一人で食事をするなら食べない、という行動に出た。

 彼女の行動の意味に気づいたホースたちが時間を作ってくれれば、と淡い期待をしながら。

 他のわがままも同じだ。全ては寂しさがさせたことである。ホースたちが自分のことを見てくれるように願っていたのだ。

 ただそれだけだった。

 わがまま令嬢ローズは、一番言いたいわがままを言わずに小さな体で寂しさを耐えていた、親思いの女の子。

 賢く素直な優しい女の子だった。

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