第149話 食レポ公爵

 食べる前に食べ物を観察するのは防衛意識なのか、観察して褒めるのがマナーなのか。しっかりと見た目の感想を述べてからホースはスプーンを口に運ぶ。

 最初に舌を驚かせたのは、ケチャップの酸味と甘みだった。チキンライスに混ぜ馴染ませたケチャップが舌の上で広がり、オムライスとはこの味なんだと教える。


「おお、これは!」


 味を理解したホースが美味しさを表現しようとするが、立て続けに鶏肉の旨味がジュワっと溢れ出た。

 鶏肉単体でもこちらの世界では豪華な料理に匹敵する美味。それがケチャップと合わさることで、旨味の上限値を一気にぶち破る。

 全ての味を引き締めるほどよいコショウのアクセント。それらを受け止める米の懐の広さ。最後に卵が訪れることで、全体が忘れられない思い出へと変換された。

 まろやかな卵によってくどくなりすぎず、良いところだけを残してくれる。一口食べ終えた際にふわっと鼻を抜けるバターの香りがさらに食欲をそそり、もう一口食べたくなってしまう。


「なんと・・・・・・トロイメの味を楽しむものかと思えば、トロイメはあくまでも脇役だったとは・・・・・・なんと表現しよう。そうだな、まるで様々な楽器が音を重ね新たな音楽を生み出しているようだ。旨味という音が口の中に響き渡っていく。これは凄い、いやはや思っていた以上だ」


 この人しっかり食レポするなぁ、と冨岡は微笑みながら聞く。ここまでの表現では足りなかったらしくホースはさらに続けた。


「この楽団を指揮するのはこの穀物だ。それぞれの旨味を吸い、食材たちがバラバラにならないようまとめている。違うかな?」


 大袈裟に問いかけられた冨岡は頷いて答えた。


「そうですね、卵料理と言われることもありますがメインになっているのは米かもしれません。オムライスという名前のライスは米って意味ですからね」

「この穀物の名前はコメ・・・・・・ふむ、小麦とはまた違う穀物だね。なるほどなるほど、これはいい。食べ応えもあり、触感も面白い。なにより噛めば噛むほど溢れるほのかな甘みがたまらないな」

「米は俺の故郷で主食として揺るぎない地位を築いています。俺にとっても慣れ親しんだ味ですね」

「ほう、こんな美味しいものを・・・・・・世界は広いものだね。さぁ、二人とも一緒に食べようじゃないか」


 そう言ってホースは夫人とローズに促す。公爵家当主たるホースが一番に食べ、彼の許可が出てから食べ始めるのはこの家での規則のようだ。

 夫人とローズは同時にスプーンを取り、ホースと同じ手順でオムライスを口に運ぶ。

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