第148話 いただきますの三重奏

 その間にホースが完成させたオムライスをダルクがローズの前に運んだ。


「どうぞ」

「これがお父様の・・・・・・」


 ローズはこれまでの二人と同じようにケチャップで書かれた文字を読む。

 日本で生まれ育ち、義務教育を受けていた冨岡からするとそれほど不思議なことではなかったが、よく考えてみれば八歳で文字の読み書きができるのは優秀なのかもしれない。こちらの世界の文明や文化を全て把握したわけではないが、少なくともローズが勉強を嫌っているようには見えなかった。

 それほど時間をかけずにケチャップ文字を解読したローズはそのまま読み上げる。


「ローズを・・・・・・愛している・・・・・・お父様、これって」

「何かな、ローズ。それはソースだろう? ソースはソースだよ。何かを感じ取っても、黙って飲み込むのが正しいマナーじゃないかな。違うかい、トミオカ殿」


 ホースに問いかけられた冨岡は優しく頷いた。


「ええ、その通りです。普段、伝えられない言葉を伝えるのですから、伝えられた側は黙って飲み込みましょう。なにせ、オムライスは食べ物ですからね。ダルクさん、スプーンをお願いします」

「承知いたしました」


 おそらく銀製のスプーンをダルクが配り終えると、冨岡は目の前の三人に向けて手を合わせる。


「さて、せっかくですから俺の故郷のマナーに則ってください。やはり、その土地の風習通りに食べるのが一番ですからね。このように手を合わせるんです」

「こうかね?」


 率先してホースが手を合わせた。さらに「こうかしら」と呟きながら夫人が続く。一瞬遅れてローズも素直に冨岡の真似をする。

 やけに素直だな、と両親に挟まれたローズに微笑ましさを感じながら富岡は口を開いた。


「いい感じです。それじゃあ、俺の言う言葉を繰り返してくださいね。俺の国では食事前にこう言うんです。いただきます」

「いただきます」

「いただきます」

「い、いただきます」

「はい、どうぞ召し上がってください」


 冨岡が促すとまずはホースがスプーンを手に取る。そのままどう食べようかと悩んでいたので、冨岡はオムライスを指さして説明した。


「多くの人は端から食べ進めていきますね。まず縦にスプーンを入れて、切り離してから掬うんです」

「なるほど、ナイフの役割もスプーンで・・・・・・すまないね、初めて見るものだから」


 ホースは冨岡の指示通り、オムライスにスプーンを入れる。

 卵に覆われたチキンライスが顔を出し、その全貌が明らかになった瞬間、ホースは感心したように息を漏らした。


「ほぉ、なるほど。全てが卵というわけではなく、中にはこんなものが隠されていたのか。ふむふむ、これは楽しい。中にもトメイロのソースが使われているね。これは・・・・・・穀物かな?」

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