第147話 父から娘へ
親子の心が触れ合う瞬間を目の当たりにした冨岡は、光に包まれるような温かさを感じた。
もしかすると、手紙で良いだろうと思う人もいるかもしれない。だが、手紙であればここまで素直になれなかっただろう。
オムライスの上にケチャップで、という書きにくい状況だからこそ生まれる文字数制限。初めて料理に携わったという高揚感と達成感。冨岡に背中を押された心強さ。それらがローズに素直で率直な言葉を書かせていた。
さらにその効果はオムライスによってここから高まっていく。冨岡は手押し台車からもう一つのオムライスを手に取り、ホースの前に置いた。
「ホース公爵様、こちらをどうぞ」
冨岡がそう言うとホースは目の前に置かれた二つのオムライスを交互に見比べる。
「おや、私の分はもうあるよ。さすがにこの量を二つは食べられないかな」
「いえ、これはホース公爵様の分ではありませんよ。ローズお嬢様の夕食です」
「ん? それでは、私の前に置いたのはどういう・・・・・・」
当然の疑問を口にするホース。彼からすると意味が分からない。
すかさず冨岡はケチャップの容器を手渡した。
「ローズお嬢様のオムライスを完成させるのを、ぜひホース公爵様にお願いしようかと思いまして」
「オムライス?」
「こちらの料理名です。そして今お渡ししたのがケチャップです」
「ほう、このトメイロのソースはケチャップというのか。これで私に何を・・・・・・」
そこまで言ってからホースは二つのオムライスの違いに気づく。新たに置かれたオムライスにはケチャップがかけられていない。
ローズ用のオムライスにメッセージを書け、という冨岡の意思を汲み取ったホースはケチャップをまじまじと眺める。
「トミオカ殿、これはどのようにすれば?」
「ああ、上の蓋を開けてください」
冨岡がホースにケチャップの扱い方を説明している間に、ダルクがローズの椅子を用意していた。ホースと夫人の間に座り、オムライスの完成を待つローズ。
「あとは、少し力を加えれば出てきます」
説明を終えた冨岡はローズに視線を送り、優しく微笑んだ。視線を受けたローズは少し恥ずかしそうに、かつ上品にちょこんと座っている。
何とかケチャップの使い方を覚えたホースは少し考えてから容器を絞った。
手元を眺めてはいるものの、もちろん冨岡にはその文字が読めない。こちらの世界の文字をいくつか書いたホースは満足げにケチャップを置いた。
「よし、これでいいかな。いやはや、中々難しいものだね、これは。そう考えるとローズはかなり上手かったと言えるだろう。なぁ、トミオカ殿」
「ええ、ローズお嬢様はとても上手でしたよ」
話題に挙げられたローズは照れたように背中を丸める。
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