第146話 両親への言葉

 明らかに冨岡へは心を開きかけているローズ。そんな冨岡に背中を押された彼女は、ダルクが押していた手押し台車からホース用のオムライスを手に取る。

 まだ少し緊張を感じさせる表情で、ホースの近くまで歩み寄るとオムライスを机に置いた。


「あの、これ・・・・・・」


 父親であるホースに対して独特な距離を感じる。

 そこから先、冨岡は温かく見守っていた。ローズが一歩進むためには自らの意思で踏み出すことが重要である。もう背中は押せるところまで押した。あとは本人がどこまで自分の気持ちを伝えられるのか。ホースが読み取って受け止められるのか。

 家族同士で向き合う時間である。

 ホースはオムライスを見ると感動したように息を漏らした。


「ほぉ、これは凄い。輝く日の光のような卵と・・・・・・これはトメイロのソースかな?」


 おそらくトメイロはこちらの世界にあるトマトのような果実か野菜だろうと冨岡は想像する。

 さらにホースは言葉を続けた。


「ふむふむ、美しい黄色に燃えるような赤は映える。おや? ソースが文字になっているようだね」


 そう言いながらホースは皿を持って九十度回す。どうやら文字が垂直になっていたようだ。

 ケチャップで書かれた文字は理解できる者でも解読が必要。ホースはしばらく目を細めて眺めた後に、書かれている文字を読み上げた。


「えっと・・・・・・もっと一緒にいたい? これは一体?」


 誰が書いたのかも知らないホースは一度冨岡に視線を送る。視線を受けた冨岡は得意げに口角を上げてから、目線でローズを示した。

 そこでようやくホースは気づく。


「まさか、このソースで書かれた文字は・・・・・・」


 言いかけながらローズの顔を見るホース。彼女の恥ずかしそうな表情に気づいて言い方を変えた。


「このソースをかけたのはローズなのかい?」

「はい・・・・・・」


 問いかけられローズは恥ずかしそうに答える。続いて公爵夫人にはダルクがオムライスを運んだ。


「どうぞ、奥様」

「あら、ありがとう。私の方にも文字が・・・・・・じゃなくてソースがかけられているわね」


 空気を読んでホースと同じように言い直す夫人。

 気を遣ったダルクが文字を読めるように配膳していた。

 夫人はまじまじと文字を眺めてから優しい口調で読み上げる。


「ん-と、心配かけてごめんなさい・・・・・・かしら? ふふっ」

 

 解読した夫人は余程嬉しかったのか、思わず笑った。二人の反応を目の当たりにしてようやく緊張が解けたローズは年齢相応な微笑みを浮かべる。

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