第141話 オムライス

 細かい鶏肉に焼き目が付いたところで、みじん切りにした野菜を投入。その後、すぐに温めたレトルトの白ご飯を投入して塩コショウ、ケチャップを追加。手軽なチキンライスを完成させる。

 完成させたチキンライスを平皿に盛ると次の工程に取り掛かった。

 そんな冨岡の一挙手一投足にローズも料理人たちも釘付けである。

 ローズからすれば料理していること自体が珍しいのだが、料理人たちからすると自分たちの理解外の行動が多い。

 お湯で温めたのは一体何なのか。野菜を細かくする理由は何なのか。赤いソースはどのような味がするのか。料理人ならではの疑問が冨岡の背中に突き刺さる。

 自分の方が進んだ知識を持っているとはいえ、プロの料理人たちに見られるのは中々プレッシャーだな、と冨岡は苦笑した。

 冨岡の気まずさに気づいたのか、ダルクはパンパンと手を叩いてから料理人たちに注意する。


「背後からそのような視線を向けられては、トミオカ様もやりにくいでしょう」


 すると料理人の一人が勇気を振り絞ってこう答えた。


「すみません・・・・・・ですが、その方の料理は我々でも理解できないところがございます。その上で、こんなにもいい香りをさせているんです。何か学べるところがあるのではないか、と」

「学ぼうという姿勢や向上心は大変結構なことですが、今回はご遠慮ください。なにせローズお嬢様が見学なさっているのです。それを阻害するような行為は禁止とさせていただきますよ」


 ダルクが言うと料理人たちは、それぞれ自分の仕事に戻る。残念そうだな、とは思うものの今はローズと向き合いたい冨岡からすれば助かる。

 それでも少しの申し訳なさが残ったので、冨岡は料理人たちに声をかけた。


「もし良かったら、皆さんのお時間が空いている時・・・・・・そうですね、夜にでも教会に来てください。俺に教えられることがあればお教えしますよ」


 料理人たちは冨岡の言葉に感謝をし、再び仕事に戻る。

 冨岡も料理に戻り、新しいフライパンにバターを落とした。


「さて、ローズお嬢様。今から卵を使いますよ」

「ようやくね? 私が割った卵だわ。無駄にしないように使いなさい」

「ははっ、承知いたしました」


 冨岡は溶けたバターの中に適量の溶き卵を入れる。ジュワっと音を立てて、液体のようだった卵は個体に変わっていく。少し厚めに広げた卵が円の形で固定され、ちょうどいい半熟になったところで、平皿の上に盛ったチキンライスを隠すように被せた。

 卵とケチャップの甘み、鶏肉と野菜の旨味が米を引き立たせるオムライスの完成である。

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