第142話 想いのケチャップ
いや、まだ完成ではない。
オムライスを三つ作り終えたところで、冨岡はローズにケチャップの容器を手渡した。
「あとはお嬢様の手で完成させてください」
冨岡がそう言うとローズは首を傾げる。
「先ほどもこれを入れてたわよね? まだ使うの?」
「ええ、そうです。オムライスはケチャップをふんだんに使うものなんですよ。ケチャップじゃなくてデミグラスソースやホワイトソースの場合もありますけどね。ケチャップでオムライスを彩って完成です」
「彩る?」
「俺の国では・・・・・・そうですね、ハートを描いたり文字を書いたりすることが多いですよ」
冨岡の説明を聞いた上でローズは意味が分からず再び首を傾げた。
「ハート?」
「あなたのことが好きですって意味のマーク・・・・・・えっと、紋章のようなものですね」
ようやく『ハート』の意味を理解したローズは恥ずかしそうに言い返す。
「す、好きな殿方なんていないわよ!」
「ははっ、好きにもいくつか種類があって俺の国では『ラブ』と『ライク』なんて言い方をします。異性としてではなく友人としての好きとか、家族としての好きとか色々・・・・・・ローズお嬢様の好きは一つではないでしょう? それにハートじゃなくて言葉でもいいんですよ。例えば、いつもありがとうとか・・・・・・面と向かっては言えないことを伝えられるのもオムライスの良さですね」
「面と向かって言えないこと・・・・・・」
そこで言葉が詰まるローズ。
その背後にいたダルクがオムライスの数について冨岡に問いかけた。
「そういえばトミオカ様。これはローズお嬢様の夕食ではなかったのですか? 一人分にしては多いでしょう」
「ふっふっふ、美味しいものは人と人を繋ぐんです。俺はこのオムライスでホース公爵様の悩みを解決しますよ。それと同時にローズお嬢様の悩みもね」
「ローズお嬢様の?」
理解できずに聞き返すダルクを尻目に、冨岡はローズの前でしゃがんで目線を合わせる。
「ローズお嬢様、このオムライスはお嬢様が初めて作った料理です。せっかくですからホース公爵様と公爵夫人様にも召し上がっていただきましょう」
「お父様とお母さまに?」
「そうです。お二人に普段言えない思いを書いてみてはいかがですか? もし思いが伝わらなくても、料理のソースでした、で誤魔化すこともできます。いえ、ローズ様を愛しておられる公爵様に伝わらないことなんてありえません。俺が保証しますよ」
冨岡の言葉を聞いたローズは反射的に言い返した。
「あなたの保証なんて・・・・・・」
言いかけたものの途中で言葉を止める。
「俺の保証なんて、意味ないですか?」
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