第140話 みじん切り乱舞
言いながら菜箸を探す冨岡だが、箸の文化がないこの世界で見つかるわけもなく代理として大きめのスプーンをローズに手渡す。
「これで卵を満遍なくかき混ぜてください。全体的に黄色になるまでお願いします」
「こうかしら?」
ローズは慣れない手つきでボウルの中にある卵をかき混ぜた。
その間に冨岡は次の準備を始める。
まずは鍋に水を入れて湯を沸かしてほしい、とダルクに依頼した。続いて料理人たちに借りたまな板と包丁で野菜を刻んでいく。人参、ピーマン、玉ねぎを全てみじん切りに。続いて冷凍していた鶏肉を取り出した。
「よし、ちょうど解凍された状態だな。これもみじん切りにして・・・・・・」
そんなことをしながらダルクの方に視線を向けると、コンロのような物の前で鍋をしっかりと監視している。そこまで真剣に見続けなくてもいいのだが、と思う冨岡。
よく考えてみると、アメリアの教会で見たコンロとは大きく違う。教会にあったのはかまどに近い形状をしており、火をつけて使うタイプの物だった。対してここにあるコンロは火を使わずに熱している。
注視してみると鍋の下には、いくつか宝石のようなものが設置されていた。
こちらの世界で目にするよくわからないものや現象は大抵魔法である、と冨岡は自分を納得させる。
そうしていると隣にいたローズが息を荒げながら問いかけてきた。
「ねぇ、いつまで続ければいいのよ。ちゃんと見てる?」
「なによ、ちゃんと見てなさいよ」
自分の作業と物珍しいコンロに夢中になっていた冨岡は、当然ローズに叱られてしまう。
卵の撹拌作業を終えたローズは一息ついてから冨岡を見上げた。
「次は何をすればいいのかしら」
「えーっと、そうですね。ここからは難しい作業になるというか、少し危険な工程なので少し見ていてもらえますか?」
「もうすることはないってこと?」
「いえ、ローズお嬢様には最後、一番大切な仕上げをしていただきますよ。この料理の中で一番大切な作業です」
毎度ながらローズは必要とされることに弱い。冨岡にそう言われれば簡単に引き下がる。
「そう、それなら仕方ないわね。私の仕上げのために早く終わらせなさい」
その後、冨岡はダルクが沸かした湯の中にレトルトの白ご飯を必要分入れて温めた。それと同時にフライパンを『原理がわからないコンロ』の上に置いてバターを溶かす。
バターを入れてから鶏肉を切っていないことに気づき、慌てて細かく切った。
既に溶け切ったバターの中に鶏肉を入れてよく火を通す。
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