第139話 卵割れたで賞
ダルクのアドバイス通り、ローズはゆっくり卵を調理台にぶつけた。あまりにも弱かったために、卵の殻には傷一つ入らない。
恐る恐る卵の下を覗き込むローズだが、割れていなかったため不満そうな表情を浮かべる。
「割れないわ」
「もう少し強く、叩きつけるというよりも調理台の上で跳ねさせるようなイメージです」
簡単に補足する冨岡。それを踏まえてローズはもう一度挑戦する。
「叩きつけるより跳ねさせる・・・・・・やってみるわ・・・・・・えいっ」
彼女は慎重に卵の殻にひびを入れた。二度目だというのに成功させたローズは嬉しそうに冨岡を見上げる。
「やったわ! これでいいんでしょ?」
得意げに卵を見せつけてきたので、冨岡は微笑んで答えた。
「おお、完璧ですよ。ひびが入った卵は潰れやすいので優しく持ってくださいね」
「優しく・・・・・・こうね?」
「そうです。そのまま両手で持って、半分にするように割るんです。もう一度やって見せますね」
そう言って冨岡はもう一つ卵を割って見せる。
「いいですか? ひびを起点として半分にするんです。この時、ひびを大きくしてしまうと殻が入るので、優しく割ってくださいね」
「また優しくなのね。卵ってすごく気を遣う食材だわ」
「ははっ、そうですね。物としての扱いもそうですけど、調理にも気を遣う食材だそうですよ。料理人の腕は卵料理でわかるって言われるほど、調理の技術に味が左右されるんです。シンプルな食材だからこそ腕がわかるって言われています。それでも使いこなせれば卵はメインにも副菜にもなれるすごい食材なんです、卵は」
冨岡の話を聞いてからローズはより慎重に扱い始めた。
ひびの近くに両手の親指をかけて、ゆっくりと左右に力を加えていく。卵の殻は別れを惜しむようにゆっくり二つに割れた。
それと同時に殻で守られていた中身がボウルに落ちる。
「できたわ!」
彼女は踏み台の上で飛び跳ねかねない勢いのまま冨岡にアピールした。
「すごいじゃないですか! 二回目で成功するなんて」
冨岡が褒めるとローズは可愛らしいドヤ顔を浮かべる。
「ふふっ、そう? これってすごいのかしら?」
私、なにかやっちゃいました、とでも言いそうな勢いだ。
冨岡に少し遅れてダルクも彼女を称える。
「お嬢様、さすがでございます! このダルク感動いたしました」
さらに他の料理人たちも拍手を送った。さながら授賞式である。
卵割っただけなんだけどな、と思いながらも冨岡は笑顔を向けた。
「じゃあ、次はかき混ぜていきましょう」
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