前のエピソード――第134話　一緒に

　数人の料理人が夕食の準備をしていたのだが、突然入ってきた他人とお嬢様、執事に驚き手を止める。

「あの、一体？」

　料理人の中で最も高い序列にいるだろう男性が視線を右往左往させた結果、ダルクに問いかけた。普通に考えれば、他人やお嬢様よりも執事の方が話しかけやすい。

　互いにキュルケース家の使用人同士。だが、どうやらダルクの方が序列は高いらしく、彼は敬語ながらも強制力のある言葉で答えた。

「こちらは旦那様が直接、お嬢様の食事作りを依頼されたトミオカ様です。少しの間厨房をお借りしますよ」

　料理人の答えを聞く前にダルクは冨岡に問いかける。

「トミオカ様、必要なものはございますか？　食材でも器具でもご自由にお使いください」

　調理器具は料理人の魂ではないだろうか、と思いながらも冨岡は答えた。

「食材はある程度持ってきているので、フライパンと鍋・・・・・・あとは包丁を借りてもいいですか？」

　そう話す冨岡はリュックと先ほど取り出した卵一パックを持っている。

　料理人たちはダルクの指示に従い調理場の一部と調理器具を冨岡に貸し出した。

「それでは、こちらをお使いください」

　ホース自ら雇ってきたという触れ込みが効いているのだろう。居心地が悪いほどに丁寧な扱いを受ける冨岡。

「じゃあ、ローズお嬢様。何が食べたいですか？」

「えーっと・・・・・・」

　問いかけられたローズは腕を組み首を傾げ真剣に考える。なんといってもハンバーガーを作った冨岡だ。今までに食べたことのないほど美味しい料理を生み出してくれるかもしれないという期待はある。

　そこでローズは冨岡が持っている卵に疑問を持った。

「そういえば、それを使うつもりだったんじゃないの？　わざわざ手に持っているんだから」

「あ、卵ですか？　お嬢様が何を食べたいと言っても卵は使おうと思ってるだけですよ」

「どうして？」

「卵は完全栄養食と呼ばれている食材ですからね。今のお嬢様には必要な食材です」

　冨岡の言う『完全栄養食』の意味が分からないローズ。そんな彼女の表情から伝わっていないと理解した冨岡は嚙み砕いて説明する。

「あー、えっと、ともかく卵は体にいいってことです。食べ物は体を作るものですから、食べている物によって肌や髪に影響が出ることもありますし、体だけじゃなく心の状態を変えるなんて話もあるくらいですよ。これから成長していくローズお嬢様にとって食べ物の栄養は重要です。もちろん卵だけ食べていればいいわけじゃないですけどね」