第134話 一緒に
そんなことを言いながら、冨岡はリュックからゴソゴソと食材を取り出す。
完全に冨岡が帰ると思っていたローズは一瞬言葉を失った。
「え・・・・・・今から料理するの?」
「そうですよ。あ、厨房お借りしてもいいですか?」
ダルクに確認を取る冨岡。問いかけられたダルクにとっても予想外だったらしく、戸惑いながら答える。
「え、ええ、もちろんです。元々旦那様はトミオカ様を料理人としてお雇いになるつもりでしたから、厨房への出入りはご自由になさってください」
「ありがとうございます。そうだ、ローズお嬢様」
冨岡が呼びかけると彼女は少し驚いて肩を揺らしてから反応した。
「な、何?」
「よろしければお嬢様も厨房に行きませんか?」
「私も?」
「はい、そんで一緒に夕食のメニューを決めましょう。食べられないものや食べたいものもあるでしょうからね」
そう提案されたローズは「一緒に?」と聞き返す。
これまでそんな誘いを受けたことがないのだろう。どう答えていいのかわからないらしく、彼女の表情からは動揺が見られた。
もちろん、公爵家の令嬢として生きてきて厨房に出入りすることなどなかったローズ。まだ幼いこともあり、初めてのことに緊張を覚えないでもなかったが『一緒に』という言葉が彼女の興味を著しく刺激した。
「いいの?」
しっかりと確認するローズの言葉には大人っぽい性質の気遣いと、子どもらしい可愛さが混じっている。
冨岡の思惑もあり当然承諾しようと思ったのだが、どうやら彼女はダルクに訊ねているようだった。
ダルクとしてもローズの問題を解決するべく考えていたので断る理由はない。新しい刺激になればと快諾する。
「ローズお嬢様がそうしたいのであれば、このダルクはお止めしませんよ。お嬢様自身でご決断ください」
「そう・・・・・・じゃあ、提案に乗ってあげるわ」
彼女はどこまでも素直ではない言葉で素直な気持ちを表す。
徐々になれてきた冨岡は苦笑もすることなく、笑顔で話を進めた。
「ははっ、それじゃあ一緒に厨房に行きましょうか。ダルクさん、案内していただいてもいいですか?」
「承知いたしました。ではこちらにどうぞ」
そのままダルクに案内され、冨岡たちは再び豪華な廊下を通って厨房に向かう。
屋敷の広さも相まって、やけに遠い。ようやく辿り着いた厨房は文明の違いがあり、もちろん冨岡にとってはアンティーク的に感じてしまう。しかし、この世界では最高レベルの豪華で広い厨房なのだろうと理解した。
全面レンガ造りになっているのは防火対策なのだろうか。調理場ということもあり水を使うので木材をあまり使わないのは腐食対策も兼ねているのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます