第133話 ローズ・キュルケース
疑問形の言葉ではあるものの、核心をつく彼女の言葉に冨岡は動揺を隠せなかった。
そこで確信したローズは冨岡を睨む。
「あなたは勝負と言ったわよね。勝負って手を抜くものなの? やるなら本気でやりなさいよ」
怒っているというよりも、ガッカリしたという表情を浮かべるローズ。
彼女はわかりやすく『子ども扱い』されたことで失望したのだった。
公爵家の一人娘として生まれたローズはまさにお姫様のように育てられた。生まれた時からほとんどの人間がローズに対して一定の距離を置き、敬語で接する。
唯一心を許せるはずの両親すら、公務や社交で忙しくローズとの時間が中々取れない。
そんなローズが感じ続けたのは、言葉にできないほどの孤独感。寂しさであった。
まるで高い塔の上に閉じ込められているかのように、膝を抱えて部屋の隅にいるかのように、自分は一人なのだと思い続けている。
全てではなくとも孤独の片鱗を感じ取った冨岡は、反省しつつも「やっぱり・・・・・・」と小さく呟いた。
「すみません、手を抜いたというよりもお嬢様にも楽しんでいただきたいとおもって・・・・・・いや、言い訳ですね」
冨岡が謝罪するとローズはため息をついて腕を組む。
「そういうことなら・・・・・・でも、私は手を抜かれるよりも惨敗した方がいいわ。むかつくけど」
「むかつくんじゃないですか。でも、わかりました。ここから先は失礼のないようしますね」
「そうよ。ほら、もう一回よ。ここからが本当の勝負なの。だからこれまでの負けはなかったことにするわ」
「めちゃくちゃ悔しいんじゃないですか」
「当たり前よ!」
妙な大人っぽさと、純粋な子どもらしさを兼ね備えた公爵家令嬢。それがローズ・キュルケースの本質である。
そう理解した途端、冨岡の中で彼女が偏食かつワガママであることの理由に確信が生まれた。漠然と持っていた予想を裏付ける彼女の性質。
しかし、それを正面から言い放ったところで受け入れられるわけがない。ただ彼女を辱めるだけだ。
大切なのは彼女の心に寄り添うこと。
冨岡はそう考え、容赦なく盤面を真っ白に染め続ける。
七回真っ白を見たところで、窓から橙色の光が差し込み、冨岡は夕方なのだと気づいた。
「おっと、もうこんな時間ですね。じゃあ、そろそろ・・・・・・」
冨岡がそう言うとローズは立ち上がり不満を言葉にする。
「何よ、もう帰るって言うの? 勝ち逃げは許さないわよ!」
手抜きも勝ち逃げも許されないのならずっと帰れないじゃないか、と冨岡は作り笑いを浮かべた。
「そろそろ夕食の時間ですからね」
「だから、帰るってこと?」
「まだ帰りませんよ。お嬢様の夕食を作るんです」
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