第132話 真っ白な盤面
細かいことを言えば、石を置く場所がなくなって順番を飛ばされることがないのなら黒は必ず奇数の石を置くことになる。
リバーシは六十四マスという偶数の中で石を奪い合うのだ。奇数である黒が隅に攻め込まなければならない瞬間が訪れる。
もちろんローズはそんな戦略的に考えることはせず、黒を選んだ。
「黒がいいわ。黒の方が強そうだもの」
「じゃあ、俺は白で。ルール通りお嬢様からどうぞ」
トミオカが導くとローズは思うままに石を置く。初めてリバーシをするとは思えないほどスムーズにゲームを始められたのは、ローズの優秀さゆえだろう。
だが、どれだけの見込みが早くても経験という壁は分厚く高い。
優しく説明しながらもトミオカは盤面を真っ白に染めたのである。
「あ、あれ? どうして。いつの間にか黒が一つもないのだけれど」
完全敗北という現実を受け入れられないローズが首を傾げた。
冨岡は優しく微笑みながら言う。
「たまたまですよ。偶然です」
そんなわけがない。
そう、冨岡はリバーシが強いのである。源次郎によって山の中で育てられた冨岡は幼少の頃から将棋や碁、リバーシといったボードゲームで遊ぶ機会が多かった。近くにお店や遊び場などはなく、友達の家も遠い。源次郎はゲーム機器などに疎く、冨岡自身もそれほど興味を持たなかった。
必然的に源次郎とボードゲームで遊ぶことになる。
さらに言えば、源次郎は性格的に勝負事には手を抜かない。子どもである冨岡に対してもそうだった。誰よりも負け続けた冨岡はそう簡単には負けないほどの力を得たのである。
しかし、この物語はリバーシ主体ではないので、冨岡の特技として留めておこう。リバーシで異世界無双やボードゲームで全てが決まる異世界転生なんて物語は始まらない。
冨岡に負けたローズは唇を尖らせて真っ白な盤面を見つめた。
「むー、もう一度! もう一度よ! 今度こそ負けないわ!」
負けず嫌いでいてくれるのはありがたい、と冨岡は再戦を受け入れる。
だが、ローズの隣でダルクが「角です! ローズお嬢様、角を取れば勝てるはずです!」と熱狂しているのは、正直うるさいなぁ、と思う冨岡であった。
リバーシ二戦目。ここで、冨岡はあまり勝ちすぎるとやる気をなくすかもしれない、と敢えて黒の石を残す。僅差で勝った冨岡は驚いたようにローズを称えた。
「まさか、二度目でここまで迫られるとは・・・・・・さすがローズお嬢様ですね」
そんな言葉を聞いたローズは褒められたというのに不機嫌な視線を冨岡に向ける。
「あなた、手を抜いたわね?」
「え?」
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