第127話 対等な約束
ダルクは炭酸飲料を喜々として飲むと一気に目を見開いた。
「なんと! これは凄い。口の中に広がる果実の甘み・・・・・・いえ、これは果実だけではありませんな。それどころではない甘みが身体中を駆け抜けます。複雑で様々な表情を持つ甘み・・・・・・それが舌の上で広がりながら弾けますな。私もそこそこ長く生きておりますがこのようなもの口にしたことはございません。まるで神々の飲料!」
少し大袈裟すぎないか、と思ってしまう冨岡だったがローズの興味を惹くことはできたらしい。
彼女は目を輝かせてうずうずと体を前後し始めた。
「ねぇ、ダルク! 味の話はもういいわ。それよりも危ないものじゃないのね? だったら、私も」
ローズにそう言われたダルクは少し悪戯な笑みを浮かべて、もう一度グラスに口をつける。
「いえ、これは危険ですよ、ローズお嬢様」
「どう危険なのよ。もしかして何か入っているの?」
「とんでもございません。これはあまりにも美味しすぎるのです。一度口にすれば忘れられない・・・・・・危険な飲み物ですよ」
美味しすぎて危険とは随分な話だ。
苦笑しながら聞いていた冨岡は否定するどころか、ダルクの話を補足する。
「ははっ、確かに飲みすぎると体に良くはないかもしれませんね。それはどんな食べ物でも同じです。食べ物には栄養素というものがあり、健康的に生きるためには様々な種類を摂取する必要があるんです」
そのまま冨岡はローズに向けて「ローズお嬢様のように」と続けた。
「同じものばかり食べていたり、必要なものを食べなかったりすると体によろしくありませんよ。特に成長途中であるローズお嬢様が偏食を続ければ、大人になった時後悔するかもしれません」
冨岡の言葉を聞いたローズは突然偏食を咎められ、気を悪くしたのか口を尖らせる。
「何よ! その飲み物が欲しければ言うことを聞けって言うの? あなたみたいな料理人や講師は他にもいたわ。遊びたければ勉強しろ、これを食べなければ他の食べ物は食べさせない。そんな相手に私がどうしてきたか、聞きたい?」
そこで冨岡はこれまでホースやダルクから聞いてきた話を思い返した。
酷い時には水しか口にしないローズ。それは彼女が何も食べたくなかったのではなく、料理人が用意した物を食べるように強要された結果なのだろう。
幼い彼女ができる精一杯の抵抗だった。
もちろん冨岡はそんなことを強要するつもりはない。
「違いますよ、ローズお嬢様。俺の言うことを聞け、なんて言うつもりはありません。その代わり、俺にお嬢様とお話をする時間をください。俺はお嬢様と話がしたい。俺はこれからお嬢様に様々な美食や娯楽を提供します。それらを楽しんでいる間、俺と話しましょう。これは強制するものではありません。大人と子どもではなく、一人の人間と一人の人間が交わす約束です」
言いながら冨岡は右手の小指を差し出した。
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