第121話 無視VS笑顔

 だが、文句を言われる理由などない冨岡は苦笑いを浮かべるしかない。

 そんな冨岡の気まずさを察したダルクが立ち上がりながらローズに話しかけた。


「ローズお嬢様、こちらトミオカ様でございます。ご挨拶を」

「うるさいわね、ダルク。私はこの男と話をしているの!」

「お嬢様、言葉遣いが」

「うるさい!」


 ローズはダルクの言葉を遮り、冨岡に近づく。


「あなたのせいで私は」


 そんな彼女の言葉の意味がわからず、冨岡は首を傾げた。


「私は?」

「なんでもないわよ・・・・・・」


 何故かローズの語調が弱まったところで冨岡は改めて挨拶をする。


「初めましてローズお嬢様? 冨岡と申します」

「なんで私の名前が不確かなのよ」


 冨岡の疑問符に対して文句を言うローズ。隣にいたダルクは「自己紹介なさってないからですよ」と補足した。

 彼女自身もそういえばそうだ、と思い直したのか腕を組み偉そうな状態で名乗る。


「ローズ・キュルケース」

「シンプルすぎる挨拶だな」


 冨岡が思考をそのまま言葉にするとローズは見上げるように睨みつけた。


「何か文句あるの?」

「あ、いえ、ありませんよ。それでローズお嬢様、俺が何か悪いことをしたのでしょうか?」


 問いかけるとローズはプイと顔を背けて無視を決め込む。大人っぽい話し方をすると思っていたが行動は子どもらしくて、むしろ安心する。

 冨岡は優しく微笑むと再びローズに問いかけた。


「ホース様からハンバーガーは完食していただけた、と聞いていますがお口に合わなかったでしょうか?」

「・・・・・・」

「食べすぎて苦しかったとか?」

「・・・・・・」

「嫌いなものが入ってたとか?」

「・・・・・・」

「あ、わかった。好きな男の子の名前がハンバーガーで恥ずかしかったとか!」

「うるさいわね! 違うわよ! 何よ、好きな男の子って!」


 無視され続けても質問をやめない冨岡に耐えきれず、ローズは怒鳴りつける。

 それでも冨岡が笑顔で接し続けるので、ローズはダルクに標的を変えた。


「この男。全然折れないんだけど!」

「結構なことでございますね」

「全然、結構じゃないわよ。すんごく面倒臭い!」


 不満を漏らすローズに対して、それでも冨岡は問いかけ続ける。


「パンが嫌い?」

「なんなの? 私の声聞こえてないの?」

「あ、実はトマトが嫌いだったのかな?」

「ねぇ、もう怖いんだけど。ダルク、なんとかしてよ。会話にならないわ」


 ダルクに助けを求めるローズ。するとダルクは冨岡の表情から何かを察したのか、優しく微笑んで答える。


「トミオカ様はローズお嬢様の答えを待っているのでしょう。その話を終えてからでないと進まないおつもりです」

「嫌がらせじゃない、そんなの」

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