第120話 薔薇姫

 ダルクと話しながらやけに豪華な廊下を歩いていく。さすがは公爵の屋敷だと感心するばかりだ。

 等間隔に置かれている花瓶や絵画が冨岡の目を奪う。

 手の込んだ模様が描かれている壁紙に挟まれた廊下を進むと、真っ白で綺麗な両開きの扉が現れた。


「こちらです。少々お待ちください」


 ダルクはそう言ってから扉の前に立ち、コホンと咳払いをして扉を叩く。コンコンコンコンと小気味のいい音を立てると扉の向こうに話しかけた。


「ローズお嬢様、ダルクでございます。新しい講師の方がお越しになられました」


 その言葉の数秒後、扉の向こうからバタバタと軽い足音が響いてくる。何をしているのか、と思えば扉に何か柔らかいものがぶつかりバフンと音を立てた。

 ダルクは軽く揺れる扉に向かってため息をつくと、再び呼びかける。


「お嬢様、これは旦那様たっての希望でございます。どうか、扉をお開けください」


 すると扉の向こうから幼く高い声が聞こえてきた。


「嫌よ!」


 その声からは断固拒否という意思が感じられる。たった三音でどうしても扉を開けたくない、誰にも会いたくないと伝えられるのは立派な才能だ。

 そんなローズに対してダルクは優しく話しかける。


「そうはおっしゃられても、旦那様から命じられておりますので。どうか、お開けください。私としてもこのまま引くわけにはまいりません」

「お断りよ! どうせその講師はダルクの隣にいるんでしょう? いつもみたいに逃げ出したとお父様には報告すればいいじゃない。どうせそうなるんだから」

「そうはいきません。こちらの方は旦那様が選ばれたのですから『いつもみたいに』では通用致しませんよ」


 ダルクが言うと扉の向こうから床を踏みつける音が聞こえた。


「何よ、私の言うことが聞けないっていうの? 口答えしないで、さっさと追い出しなさい!」

「そうだ、お嬢様。こちらにおられるのは昨日召し上がられたハンバーガーを作った方ですよ」


 情報をダルクが追加すると再びバタバタと足音が響いて勢いよく扉が開く。

 あまりにも突然だったため、ダルクも予測できず額を扉にぶつけた。そのまま尻餅をつくダルク。その正面には腕組みをした幼い金髪の少女が立っていた。フィーネよりも少し歳上。八歳くらいだろうか。

 白いワンピースを見に纏い、薔薇をモチーフにした豪華な髪留めをつけており一目で『ローズお嬢様』だとわかる。

 

「あなたがハンバーガーを作った人なの? なんてもの作ってくれたのよ!」


 どうやら彼女は文句を言うために姿を現したらしい。冨岡の頭に浮かんだのは薔薇の棘だった。


「えっと・・・・・・初めまして?」


 突然の文句に戸惑いながら冨岡が挨拶をすると、ローズは鼻息を荒くして睨んでくる。

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