第119話 猫かぶりのお嬢様
そこでホースは「そうだった」と思い出し、椅子に深く腰掛ける。
「すまなかったね、トミオカ殿。望み通り君の助力を得られたことでつい浮かれてしまった。ダルクの言う通り君の話を聞いてから進めようか」
そう言われた冨岡は少し考えてから首を横に振った。
「いえ、まずはお嬢様のお話を聞かせてください」
「どうしてだい? 君は自分の望みを持ってここに来たのだろう? それならばもっと主張する場面だと思うが」
「これまで公爵様は俺のために数々の提案をしてくださいました。こんな言い方をすると不遜かもしれませんが、公爵様のおっしゃる『誠意』というものもひしひしと感じています。そんな誠意には誠意で応えたいじゃないですか。まずは俺が成果を上げますから、それから俺の話を聞いてください。お嬢様の偏食を治しつつ、一般常識についての講師ができそうなら請け負う、ってことでいいですよね?」
冨岡が言うとホースは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ああ、ありがとう。君を選んでよかったと既に思っているよ」
「それは俺が結果を出せた時に言ってください。じゃあ、お嬢様に会わせてもらってもいいですか?」
言いながら冨岡が立ち上がると、ダルクが素早く動いて部屋の扉を開けた。
「どうぞ、トミオカ様。こちらです」
そんなダルクと冨岡を見送りながらホースが声をかける。
「私も行きたいのだが、私がいたのではローズが本音を話さないらしいのでね。後は二人に任せる。すまないがよろしく頼むよ」
廊下に出た冨岡はダルクに「本音を話さないってどういうことですか?」と問いかけた。
するとダルクは苦笑いを浮かべ、口を開く。
「お嬢様は自分に甘い旦那様に対して、何と申しますか・・・・・・良い子を演じておられるんですよ。ですから旦那様は周囲から聞いた話でしか知らないわけです。もちろん偏食であることはご存知ですか、無理難題を押し付ける話は聞いたことしか」
「一緒に食事するときにわがままを聞いてはないんですか?」
「旦那様は公爵様ですので、公務に追われ食事をご家族と共にされることも少ないのです。稀に全員で食事をされる時も、ローズお嬢様の食べられるメニューしかご用意いたしませんから」
そう話すダルクはどこか疲れているようにも感じた。ローズの食べられるメニューを用意するのは大変なのだろう。
これまでの話を頭の中で総合した冨岡はどこか違和感を覚えた。
「もしかして・・・・・・」
「何かお気づきになりましたか?」
「いえ、まだ確証が持てていないので。ですが、もしかするとハンバーガーを食べたのもそういうことかも」
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