第118話 今は昔

 ダルクの言葉を聞いた冨岡はとある昔話を思い浮かべた。


「何だか、かぐや姫みたいな話ですね。いや、無理難題で追い返すってところだけか、似てるのは」


 そんな独り言を聞いていたホースが首を傾げる。


「カグヤヒメ?」

「あー、俺の国に伝わるお伽噺みたいなものって言えばわかりますか?」


 ホースの問いかけに対して冨岡が答えると、彼は納得したように首を縦に振った。


「ふむ、お伽噺か。無理難題を出す話なんだね?」

「はい、美しいと評判の娘に数々の男が求婚したのですが、無理難題を押し付けられ誰もこなすことができなかった、という話です」

「求婚だと!」

「言うと思いましたよ。だから似てるのは無理難題で追い返す部分だけだって言ったじゃないですか」


 ホースの勢いに押されながら冨岡が言うとダルクが隣から口を挟む。


「旦那様の前でローズお嬢様の結婚を匂わせるようなお話は禁物でございますよ。普段は温厚な方ですが、文字通り見境をなくされますので」

「それはもう、身をもって理解しましたよ」


 そんな二人の会話に対して、ホースは咳払いで割り込んだ。


「それじゃあ私がタチの悪い親バカみたいじゃないか?」

「そうでしょう」

「そうでしょう」


 冨岡とダルクが同時に言い返す。二人の言葉を受けたホースは、バツの悪そうな表情を浮かべて話を進めた。


「と、ともかく、だよ。私はトミオカ殿が我々にはない知識を持っていると確信している。あれほど美味なものを作り出すのだからね。ローズにあれだけの量を完食させただけでもすごいことだ。他にもローズが食べられるものを生み出してほしい。そのためにローズと直接向き合い、情報を得てくれ。そしてハンバーガーを生み出したトミオカ殿の話ならば、ローズも素直に聞き入れるかもしれない。もしもローズの講師になれそうならば、その役も担ってもらいたいということだ」


 親バカだという自覚のあるホースは早口で内容を話し切る。言葉を割り込ませないためだ。

 依頼内容を全て確認した冨岡は少し考えてから頷き、了承する。


「わかりました。まだ、子どもが好みそうな料理の当てもあるので試してみましょう」

「そうか! 受けてくれるか。よかった、よろしく頼むよトミオカ殿」


 冨岡の答えを聞いたホースは立ち上がって握手を求めた。その手を取りながら冨岡も頷く。


「こちらこそよろしくお願いします」

「じゃあ、早速ローズに紹介しようか! よしダルク、今すぐローズの部屋に案内だ」


 先走るホースに対して、ダルクは優しく下から諌めた。


「旦那様、少々お待ちください。まずはトミオカ様のお話を聞いて差し上げるのが先ではないでしょうか。全ての話を聞いていたわけではないですが、トミオカ様がここにいらしたのは、トミオカ様なりの理由があったからでしょう。今からローズお嬢様のもとに向かってしまうとトミオカ様のお話を聞くことができませんよ」

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