第117話 無理難題どうなんだい
そこでホースは我を取り戻したのか、ゴホンと咳払いをしてから本題に戻った。
「と、ともかくだよ。この話ならば双方にとって利益があるだろう。どうかな? 受けてくれるのであれば、私からは詳しく娘の説明をしよう。そして君の目標についても詳しく聞かせてもらいたい」
これが破格の扱いであることは冨岡といえども理解できる。権力で押し付けることもせず、冨岡の願いを尊重してくれるホースに有り余る誠意を感じた。
この公爵のためであれば可能な限り尽くしたい、と思える。
もしかすると全ては富岡の価値に気づいたホースの策略かもしれない。だが公爵の名にかけるとまで言っているのだ。
天から垂らされたこの糸を掴まない手はない。
「もちろんです。俺にできることがあるのなら、任せてください。元々、貧富は関係なく、困っている人には手を差し伸べるのが俺の正義ですから。このタイミングで言うと利己的すぎますかね」
「はっはっは、貧富は関係ないという言葉を『貧しい者を差別しない』ではなく『富む者』相手に遣うとはね。いいや、利己的であればあるほど信用できる。面白い男だな、君は」
「こんな俺でもよければ」
「そんな君だからこそだよ。おっと、茶がなくなったね。もう少し話は続く、ダルクに用意させよう」
ホースは扉を開けて廊下に向け、ダルクの名を呼んだ。するとどこで待機していたのか、と疑問を持ってしまうほどダルクは素早く現れ紅茶を注いで、部屋から出ようとした。
そんなダルクを呼び止め、ホースはここにいるよう命じる。
「今からトミオカ殿にローズの話をするんだ、お前もここにいてくれ。少しでも多く伝えておかねばならんからな」
「御意のままに」
ダルクはそう答えてホースの側に控える。
紅茶が注がれ、準備が整ったところでホースは娘ローズの話を始めた。
「もう、ある程度知っているだろうし、繰り返しになるかもしれんが聞いてくれ。私の娘ローズは生まれた頃から少し体弱くてね。遅くに生まれた子というのもあって、甘やかしすぎてしまった。その結果、どうも我儘に育ってしまったんだよ。偏食もその一つさ。食べたいものしか食べず、したいことしかしない。もちろん、私はそんなローズでも愛しているが公爵家に生まれた以上、ここから先は民の規範となる生き方を求められる。これまで数々の料理人や講師を雇ったが、皆手に負えないと匙を投げてしまう始末でね」
ホースが言うと隣でダルクが補足する。
「どの料理人も講師もお嬢様に押し付けられた無理難題に耐えきれず、といった具合です」
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