第122話 ビスケット作戦
不満げに言うローズ。
冨岡がこんなにもローズの答えに固執するのには理由があった。
彼が幼い頃、育ての親であり祖父と名乗っていた源次郎が疑問を残さない男だったのである。
冨岡が何かを拒絶した時、源次郎はそれがどうしてなのか、と問い詰めた。答えを求め解決しようと勤めたのだった。
幼い頃は嫌なことに理由なんてないと思っていた冨岡だが、今にして思うと考える力や、何かに立ち向かう癖を得られたのは源次郎のお陰である。
それと同じようにローズに対しても答えを求めていた。
「ハンバーガーは美味しくなかったのかい?」
冨岡が問いかけるとローズは少し怒ったように答える。
「・・・・・・美味しかったわよ!」
「じゃあ、お口には合ったようですね」
ローズに対して冨岡が優しく微笑むと、彼女は少し気圧されたように口をつぐんだ。
自分が明らかに拒絶しているのにも関わらず、折れるどころか踏み込んでくる冨岡にどう接していいのかわからなくなったのだろう。
そこで冨岡はすかさず次の行動に出た。
「ローズお嬢様の一番好きな食べ物はなんですか?」
「・・・・・・甘いもの」
答えなければまた粘着質に問いかけてくるのだろう、とローズは仕方なく回答する。
それを聞いた冨岡は、そういえば身につけているエプロンのポケットにフィーネ用のお菓子を入れていたな、と思い出して漁った。
中には個包装されているビスケットとチョコレート菓子があり、少し悩んでからビスケットをローズに手渡す。
アメリアとフィーネがチョコレートで豹変したことを忘れてはいなかった。
「じゃあ、これを差し上げますね」
「な、何よ、これ」
「甘くて美味しいお菓子ですよ。よかったら召し上がってください」
ビニールで個包装されたビスケットはローズにとってもダルクにとっても珍しいらしく、二人してまじまじと眺める。
特にダルクの方が個包装に感動していた。
「これは凄まじい技術ですね。なるほど、こうすれば衛生的ですし持ち歩くことも難しくはない。その上、中に空気が入っていてお菓子が粉々にならないよう工夫されている。これをどのように・・・・・・いや、すみません。それは商人の創意工夫・・・・・・最高機密でしょう。いや、良いものを見せてもらいました」
大量生産されているものですけどね、と言えず冨岡はぎこちない笑みを浮かべる。
ダルクの話が終わるとローズはゆっくりと警戒心を見せながらもビスケットを手に取った。
「い、一応貰っておくわ。せっかくの贈り物を断るのは失礼ですものね」
「ははっ、どうぞ受け取ってください」
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