第113話 ダルクと冨岡
ダルクとそんな会話をしていると車がゆっくりと停車する。先にダルクが立ち上がり、冨岡を外へ案内した。
「どうぞ」
車の外に出ると煉瓦造りの塀に囲まれた豪華な屋敷が嫌でも目に入る。わかりやすく例えるならば大きめの体育館ほどの面積に、冨岡からすればアンティーク調に感じる屋敷が聳え立っていた。
こんなところに住むと掃除が面倒だな、とも思う。絶対に管理しきれないだろうし、絶対に持て余す。それどころか家の中で迷子になりかねない。
「でっけぇ」
冨岡があんぐりと口を開けてあほ面を晒している中、ダルクは冷静に話を進める。
「こちらがキュルケース邸でございます。どうぞこちらに」
そう言って冨岡を門に案内した。
鉄製の柵門には鷹のような鳥を模した紋章が刻まれている。おそらくキュルケース家の家紋なのだろう。重そうな門を開けるとさらにダルクは冨岡を中に案内した。
入ってすぐ屋敷に向かって道が続いており、左右には丁寧に手入れされた薔薇が緑の壁を築いている。
「これぞお屋敷って感じですね」
思わず冨岡が言葉を漏らすとダルクは首を傾げた。
「はい?」
「いえ、なんでもないです。立派な庭園ですね」
「この薔薇は旦那様にとって我が子のようなものです。何せお嬢様の名前もローズ様でございますから」
ダルクの言葉から冨岡は、昨日の貴族が『偏食の娘』と話していた子と『お嬢様』が同一人物だと推察する。ローズという名のお嬢様が偏食で、おそらくはキュルケースが冨岡を呼びつけた理由だ。
「なるほど、娘の名前をつけるほどこの薔薇を愛でているんですね」
言いながら冨岡は薔薇に見入る。流石に美しい。だがこの後すぐに冨岡は思い知る。美しい薔薇には棘がある、ということを。
そのまま冨岡はダルクに案内され屋敷の応接室に通された。外の装飾も豪華だったが中は一層凄まじい。
壁や床だけではなく、置かれた調度品の全てが高価なものだと一目でわかるほどだった。
ダルクに出された紅茶を飲みながらしばらく待っていると、部屋の扉が開き、昨日会った男性が入ってくる。
「やあ、呼びつけて悪かったね。どうも午前中は公務が立て込んでいたものだから。今日も店を出していたんだろう? ダルクから聞いたが、我が家の者で代役は務まりそうかな?」
男を見ると冨岡は座っていた椅子から即座に立ち上がって名乗った。
「はい、問題ありません。えっと、そうだ。俺、じゃなくて私、冨岡と申します」
冨岡の言葉を聞くと男は朗らかに笑って返答する。
「はっはっは、そう畏まらなくてもいいし『俺』で構わないよ。私はホース・キュルケースだ。よろしく」
ホースと名乗った貴族の男は冨岡に右手を差し出した。この世界にも握手の文化はあるらしい。
冨岡はその手を握ってから頷いた。
「こちらこそよろしくお願いします」
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