第112話 二人の代理
しばらくすると、ダルクがオオカミに角を生やしたような生き物が引く車に乗って戻ってきた。これがアメリアの言っていたフォンガ車らしい。
車からダルクと共に、革製の装備を身につけた若い男と給仕服を着た若い女が降りてくる。ダルクはその二人を並ばせてから冨岡に紹介した。
「こちらがキュルケース家に使える私兵のブルーノと調理係のミュアリーです。店主様の代わりと言ってはいささか役者不足かもしれませんが、ある程度できる者を選定して参りました。既に役目は言いつけてありますので、細かな指定があればどうぞ」
そう言われた冨岡は一度手を洗ってから、屋台を出て二人に話しかける。
「えーっと、そうですね。ブルーノさんはお店の隣に立っていてもらって、何かあれば対応をお願いします。可能な限り、それは使わないようにお願いしますね」
言いながら冨岡はブルーノの腰にある剣を指差した。するとブルーノは黙ったまま真剣な表情で頷く。
どうやら彼は寡黙な性格のようだ。コミュニケーション不足は否めないが、真面目そうで好印象を受ける。
続いて冨岡はミュアリーに話しかけた。
「ミュアリーさんには調理を担当してもらおうと思います。やること自体は難しくないので・・・・・・アメリアさん、ミュアリーさんにハンバーガーの作り方を教えてもらってもいいですか?」
「はい、わかりました!」
冨岡とアメリアが話を進めるとミュアリーは驚いた様子で話に割り入る。
「そんな大切な商品の作り方を教えていただいていいんですか?」
「ははっ、大丈夫ですよ。元々そんなに複雑なものでもありませんので、ご希望なら仕込みからお教えしますよ。じゃあ、アメリアさんお願いしますね」
そう言ってから冨岡はダルクに近寄った。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。それでは車にどうぞ」
冨岡はアメリアたちに「お願いしますね」と再び頼んでから車に乗り込む。全ては未来のために。貴族とのつながりを得て、アメリアやフィーネを幸せにするためだ。
そんな打算を抱えた冨岡を乗せ、フォンガ車は走り出す。
どうやらフォンガ車には御者がいらないらしく、ダルクも車内にいた。
「それで、俺にどんな用が?」
冨岡がそう切り出すとダルクは堪えきれないというように笑う。
「はははっ、まさか車に乗ってから問われるとは思いませんでした。よく乗ってくれましたね」
「車にですか? 話にですか?」
「どちらもですよ。ここまで『我が家に招きたい』というお話しかしておりません。それなのに詳しい内容を問わずに同行してくださいました。もしかするとトミオカ様はある程度推察なさっているのでは?」
言いながらダルクは優しく微笑んだ。
「まぁ、何となくは・・・・・・って俺、名乗りましたっけ」
「いえ、そう呼ばれておられましたので。違いましたか?」
「冨岡で合ってます。そっか、自己紹介もまだでしたね。そんな男を招いても大丈夫ですか?」
「私、キュルケース家の執事でございますゆえ、旦那様の目を信じております。トミオカ様のことは全面的に信じておりますよ」
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