第101話 醤油味の湯気
二人にフォークを渡した冨岡は改めてカップ麺を見せる。ちなみに最も馴染み深い醤油味だ。
「これはカップ麺と言ってインスタント食品の中では人気の高いものなんです。お湯を入れて三分待つとこのようにラーメンに戻るんですよ」
そう言って麺を持ち上げると勢いよく啜った。ズズズと音を立てて麺が冨岡の口に飛び込んでいく。麺に絡んだお馴染みの味が冨岡に懐かしさを感じさせた。これまで庶民的な生き方をしてきた冨岡は百億円を手にしても、結局はこの味に落ち着く。やはりインスタント食品は最高だ。
「うん、美味い。アメリアさんもフィーネちゃんも食べてください」
冨岡が食べることを勧めると、先にフィーネがフォークを麺に突き刺す。そのまま軽く回して麺を絡めとると躊躇なく口に運んだ。
しかし啜るという行為に慣れておらず、何度かフォークを上下させて麺を口に入れ終えるとゆっくり味わう。
「ん! 食べたことない味だ! けど美味しいよ」
まだ麺を口に含んだままフィーネは笑顔を浮かべた。口の端にはスープが着いており、夢中で食べていたことがわかる。
そんなフィーネの反応を見てからアメリアもフォークで麺を掬った。香ばしい湯気を浴びながら口に運ぶと、一気に濃い醤油味が舌の上で広がる。麺に絡んでいたスープが解放されたのだ。
カップ麺に含まれた旨味成分は慣れていない人にとって強烈な刺激である。脳に直接「美味しいよ」と話しかけるが如く、アメリアに『旨味』を突き刺した。
「ん! ほいひい!」
まだ飲み込む前に溢れ出る感想を止められずに口から不完全な言葉を漏らす。
二人ともが満足そうにしてくれていることで、冨岡の心は満たされた。
「喜んでくれてよかった。美味しいですよね、カップ麺。安くて手軽で美味しくて、庶民の味方ですよ」
冨岡がそう言うと、アメリアは再び驚く。
「これが庶民の味なんですか? 先ほど値段を聞いた時、粗食なんだと思っていましたが・・・・・・これだけ美味しくて銅貨二枚。しかも手軽で・・・・・・もうこれだけ食べてれば生きていけますね」
「いや、それは不健康なのでやめましょう。なんですか、その限界小説家みたいな生き方。一人暮らし始めたてみたいな食生活はダメですよ」
「しょうせつか?」
「いえ、なんでもないです。確かにカップ麺は美味しくて安いですけど、栄養面を考えるとたまに食べるくらいがちょうどいいですよ」
そんな話をしながら冨岡たちはカップ麺を食べ切った。
容器のゴミを片付けながら冨岡が「カップ麺には他にも無数に種類がある」と説明すると、二人とも目を丸くして驚いていた。
「この食べ物にそんな種類が・・・・・・トミオカさんの国は食への探究心がすごいですね」
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