第99話 カップ麺
屋台を教会の中庭に止めた冨岡はいそいそと厨房に向かう。
「到着しましたよ。さて、残りの材料を確認しましょうか」
厨房に入るなり、冨岡は冷蔵庫を探る。
帰ってくる途中、メルルズパンに寄りハンバーガーを渡して帰ってきたため、晩御飯用のハンバーガーは作れない。その上それほど大きくない冷蔵庫にハンバーガーの材料を詰めていたので、その他の食材はほとんどなかった。
「あー、料理って料理ができるほどは残ってないですね。保存食ならストックがあるんですけど」
冨岡が言うとアメリアは優しく微笑む。
「保存食でも大丈夫ですよ。食べられるだけで感謝です」
「フィーネも」
二人の言葉から『食べられない日もあった』ことを想像し、冨岡はできる限りちゃんとした食事を用意しようと心に刻む。けれど、今すぐに用意できるものでもなく、ストックの中から暖かくて美味しいものを選んだ。
「アメリアさん、そこの棚を開けてもらっていいですか?」
冨岡が指差したのは調理台の上に設置されている棚である。その中には冷蔵保存が必要ない保存食を入れてあった。
「ここですか? えっと、円筒形の何かが並んでいますけど?」
「あ、それです。三つ出してもらってもいいですか? 俺はお湯を沸かします」
アメリアに指示を出しながら冨岡は鍋に水を張り、火にかける。その棚の中に入っていたのはカップ麺だ。プラスチック容器をビニール包装しているそれが何なのか、アメリアにわかるはずもない。一度手に取ってはみたものの首を傾げていた。
「これは・・・・・・食べ物なんですか?」
これまでカップ麺を見たことがないのだから当然の反応である。冨岡はそんなアメリアの反応が可愛くて笑ってしまった。
「ははっ、その容器の中に麺が入っているんですよ。ちょっと待ってくださいね」
そう言って冨岡はアメリアからカップ麺を受け取り、ビニール包装を破く。そのまま『この線までお開けください』目掛けてフタを開けて、中身をアメリアに見せた。
「これが麺ですよ」
「・・・・・・乾燥した何かでしょうか。古くなったパンのような・・・・・・」
実物を見てもアメリアはそれが食べられるものだとは思えないらしい。確かにカップ麺はそれを食べ物だと知らなければ、古くなったパンに見えなくもないだろう。古くなったパンを食べ物だと思うかどうかは個人差があるので議論するつもりはない。
踏み台に乗ったフィーネが同じように覗き込むが「何これ」と言うだけだ。
少し待ってお湯が沸くと冨岡はフィーネに「離れててね」といい、容器に注ぐ。一気に湯気が立ち、粉末スープの香りが広がった。
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