第98話 結果的に

 元々『白の創世』という宗教組織の所有物だった教会。その過去から人によっては敬遠される場所だろう。アメリアも少し不安そうに服の裾を掴んでいた。

 しかし、貴族の男は嫌な顔をするどころか二度頷き、優しい笑みを浮かべる。


「そうか、なるほど。『あの』教会か」


 その笑みにはどのような意味が込められているのか、冨岡にはわからない。

 優しい表情ながら強調された『あの』という言葉。一体、何を指しているのか。

 少なくとも男は嫌悪感を出しはせず、ハンバーガーの入った紙袋を持ち「ありがとう」と言って去っていった。

 これで残っている材料はハンバーガー二つ分だけ。先ほどの男が本当に最後の客だろう。


「何はともあれ、無事終わりましたね」


 冨岡がそう言うとアメリアが目を細めて言い返した。


「全然無事じゃなかったじゃないですか」

「結果的に無事だったじゃないですか」

「結果的に、じゃないですか。自分を大切にしてください」

「そう言うアメリアさんも揉め事が起きた時、真っ先に飛んで行きましたよ?」


 二人は昼間の揉め事の話をしている。アメリアは冨岡が刺されたことを、冨岡はアメリアが揉め事を収めようと無謀に突っ込んでいったことを。互いに互いのことを心配しているのだ。

 アメリアが「それはそうですけど」と答える。すると、オレンジジュースを飲んでいたフィーネがグラスから口を離し、冨岡に話しかけた。


「先生はそんな人なんだよ」


 その言葉にはアメリアを一番近くで見続けたフィーネの気持ちが全て込められていた。誰かが困っていると放っておけない。自分の身を犠牲にしてでも誰かを助けたい。アメリアは『そんな人』だ。


「そっか、そんな人か。ははっ、じゃあしょうがないな」


 何かを諦めたように冨岡が笑うと、アメリアは頬を膨らませる。


「フィーネもトミオカさんも何言ってるんですか。二人とも無茶してましたからね?」


 戦闘能力は皆無だというのに傭兵に立ち向かった冨岡。自分に秘められた力があると知らずに発動したフィーネ。確かにアメリアと同じようにそれぞれ無茶をしていた。アメリアのことばかり言えないだろう。

 アメリアとフィーネの性格を理解した冨岡は心に誓う。


「わかりました。これからは俺が守りますから」

「何もわかってないじゃないですか。トミオカさんも自分のことを大切にしてくださいって言ってるんです」


 再びアメリアは頬を膨らませた。

 そんな話をしながら屋台の中を片付け、冨岡たちは大通りを通って教会に戻る。

 トラブルに巻き込まれたものの無事であったことに感謝をし、今後このようなことがないよう祈りながら。

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