第84話 儲け以上の利益
素直な感想を口にする冨岡に優しく微笑みかけながらも、アメリアは手を止めない。スムーズにハンバーガーを販売し続け、列を捌く。
「ふふっ、私はずっと教会で働いていたんですよ? 教会では炊き出しや礼拝堂の列整理が毎日のようにありましたからね。これくらい問題ないですよ。私もフィーネも」
そう言いながらアメリアは視線でフィーネを示した。視線を促された冨岡がフィーネを確認すると、慣れた様子で列を上手く誘導している。
「どうぞ、こちらでーす。あ、ダメだよ、ちゃんと並んでね」
相手との距離を取りすぎるわけでもなく、不快にさせるわけでもなく、ちょうどいい距離感で客を捌くフィーネの姿は頼り甲斐がある。フィーネにしかできない接客だろう。
「すごいね、フィーネちゃん」
「あ、トミオカさんだ。おかえりなさーい。へへへ、フィーネえらい?」
「うん、偉いよ。ありがとう、フィーネちゃん」
冨岡はフィーネに近づき、優しく頭を撫でる。満足そうに笑顔を浮かべるフィーネは天使のように愛らしい。
二人に挨拶を済ませた冨岡は急いで屋台の中に入る。
「アメリアさん、交代しますよ。アメリアさんはフィーネちゃんと一緒に外で列の整理をお願いします」
五歳のフィーネをいつまでも一人にさせられない。かと言って列の整理は不可欠だ。最適な人員配置は冨岡が調理をすることだろう。
アメリアの方もそれを理解しており、即座に入れ替わる。
「はい、わかりました。あ、そういえばパンの方は大丈夫ですか? メルルズパンでしたっけ?」
「よくわかりましたね? 俺がメルルズパンに行ってきたって」
屋台の中でフライ返しを手に取りながら冨岡が聞き返した。
するとアメリアはいつもよりも少し悪戯な笑みを浮かべる。
「そりゃそうですよ。トミオカさんは最適な判断をしてくださいますからね。それに他からパンを得る手段なんてないでしょう?」
「あ・・・・・・」
そこで冨岡は何度目かの失態を自覚した。異世界の話など伝わるわけもなく、話してもいない。元の世界に戻ってパンを取りに行くという発想は冨岡にしかできないものだ。
「そりゃそうですよね」
と誤魔化し、冨岡はハンバーガー作りを続ける。
そのタイミングで客から「まだか?」と言われ、アメリアはカウンターの外で販売に徹した。
元々、対面販売するために作ったカウンター。外の様子はよく見える。ハンバーガーを受け取った客は即座に齧り付き、目を見開いて笑顔を浮かべる。
美味は共通言語、とでも言うべきか。冨岡の作った美味が舌に乗り、細胞ごと客の心を震わせる。
思わず冨岡が笑みを溢すと、同じようにアメリアも微笑んだ。
「ふふっ、お客さんが笑顔になってくれると嬉しいですよね。商売ですから儲けは大切ですけど、それ以外のものも得られているような気がします」
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