第85話 トラブル発生

 広場に溢れる笑顔。その中心にいるのは紛れもなくアメリアだろう。アメリアの両隣に冨岡とフィーネがいて、柔らかで優しく美味しい空間を作り上げていた。


「そうですね」


 冨岡は優しく口角を上げてから、ハンバーガーを作り続ける。

 慣れてくれば考えなくても手が動くもの。あとはミスがないように気をつけるだけだ。

 大抵こういう時は慣れてきた頃に何かが起きる。

 ミスやトラブルに気をつけ、ようやく百個分のハンバーガーが完成したと同時にメルルの声が聞こえた。


「トミオカさん! 持ってきましたよ、追加のパンです」


 冨岡が顔を上げると木製の容器に入れられたパンがカウンターに置かれている。その向こう側には汗だくのメルルが立っていた。

 

「メルルさん! ちょうどパンがなくなったところでした。ありがとうございます」

「間に合ってよかったです。それにしてもすごい人数ですね」

 

 広場を見渡しながらメルルが言う。その途中でアメリアと目が合い挨拶を交わしていた。

 そんな二人の話を聞いていたかったが、調理に追われている冨岡にそんな余裕はない。

 パンの追加も届き、今の所ミスもなく、列も滞りなく進んでいる。どうやら問題は起きなさそうだ。

 折り返し地点だな、と思いながらも冨岡が安堵を感じた瞬間、警戒していたその時が訪れる。


「おい、邪魔だろうが!」


 男の叫び声が行列の後方から響いてきた。粗暴な声である。

 ちょうどハンバーグを焼いており、手が離せなかった冨岡が顔を上げてその方向に目を向けた。声の主の姿は見えず、その周辺からザワザワと声だけが聞こえる。

 咄嗟のことで動けない冨岡。そんな中、叫び声は続いた。


「おい、どけよ!」


 どうやら通行の邪魔になっているということらしい。しかし、ここは広場だ。人混みを避ければ通行は可能。

 難癖をつけていることは明白だった。

 冨岡がそんなことを考えている一瞬のうちに、メルルと会話していたアメリアが先に動く。

 彼女は即座に人混みを掻き分け、叫び声の元へと向かった。


「アメリアさん!」


 冨岡の呼びかけにも応えず、アメリアは人混みの中へと消えていく。


「先生!」


 その背中を追いかけてフィーネも行ってしまった。


「フィーネちゃんまで」


 トラブルに慣れていない冨岡は何が起きているのかと考えるため、一瞬動きが止まってしまう。一方、アメリアたちはこの揉め事の多い世界に慣れているため、考えるよりも先に体が動いたのだ。

 アメリアとフィーネの背中を見送った情けなさを感じ、冨岡は全てのスイッチを切って屋台から出る。


「すみません、ちょっと待っててください!」


 待っている客にそう伝えると冨岡は叫び声の方に走った。

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