第62話 肉汁のナイアガラ

 食堂に入るとアメリアは机の上に並べられたハンバーガーに目を輝かせた。


「うわぁ、何ですかこれ。すっごく美味しそう。それにいい匂い」


 そう言いながらアメリアはスンスンと鼻を鳴らす。

 冨岡が微笑ましく眺めているとフィーネが椅子に座って得意げに口を開いた。


「これフィーネが作ったんだよ!」

「え? フィーネがこれを?」


 信じ難いという表情で冨岡に視線を送るアメリア。作ったと言うよりは手伝ったと言った方が正しいのだろうが、あえて正す必要もない。

 冨岡は優しく頷いた。

 アメリアは冨岡の反応を見てさらに驚く。


「本当にフィーネが・・・・・・」

「えへへ、フィーネすごい?」

「ええ、本当にすごいです。早速いただいてもいいですか?」


 アメリアは得意げなフィーネに返答しながら椅子に座った。するとフィーネはまるでお姉さんにもなったような気持ちで腰に手を当てて言葉を続ける。


「ダメだよ。ちゃんと手を洗ってからです」


 フィーネに注意されたアメリアは無性に可笑しくなり笑みを浮かべた。


「ふふっ、そうですね。じゃあ、手を洗ってきます」


 アメリアが手を洗うために厨房へ向かうと冨岡も椅子座ってフィーネに微笑みかける。


「アメリアさん喜んでたね」

「うん! あんなに嬉しそうな先生久しぶりに見たよ。いつも悲しそうな顔をしてたから」


 その言葉を聞いた冨岡はアメリアの気持ちを察した。

 どれだけ頑張っても好転しない現状。フィーネに満足な食事を与えてやれないというもどかしさ。彼女はそんなものを抱え、一人で戦っていたのだろう。

 同時に冨岡は自分がいることでアメリアの笑顔を取り戻せたことを嬉しく感じた。


「良かったよ。本当に良かった」


 そんな話をしているとアメリアが厨房から戻ってくる。


「何が良かったんですか?」

「あ、いえ、何でもないですよ」


 冨岡が誤魔化すとアメリアは首を傾げながら椅子に座りハンバーグと向き合った。


「本当に美味しそう。色んなものが重なってて宝箱みたい」

「食の宝箱で肉汁のナイアガラですよ」


 チャンスだと言わんばかりに冨岡が耳に残っているフレーズを口にするとアメリアは苦笑いを浮かべる。


「な、ないあがら?」


 流石にすべったと気づいた冨岡は気まずそうに首を横に振り話を変えた。


「何でもないです。それより食べましょうよ」

「そうですね。じゃあ、いただきます。えっとこれはどうやって食べるものなんでしょうか?」


 ハンバーガーを初めて目にしたアメリアが戸惑っていると率先してフィーネが行動に出る。


「先生、こうやって食べるんだよ」

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