第63話 出店場所

 おもむろにハンバーガーを掴んだフィーネはそのまま大きく口を開けて齧り付いた。

 様々な食感と旨味が口の中に広がり自然と笑顔にさせる。


「美味しいっ! ほらほら、先生も食べてみて」


 フィーネに促されたアメリアは恐る恐るハンバーガーを手に取り口に運んだ。改めて見るとふわふわのパンに新鮮でみずみずしい野菜、ずっしりとした肉の塊がそれぞれ存在感を放っている。

 ハンバーガーは目だけでなくアメリアの鼻も刺激し始めた。肉の香ばしさが自分の空腹を立体的に感じさせる。


「美味しい・・・・・・美味しいです、すごく!」


 感動をそのまま表情に映し出しアメリアはフィーネに優しく微笑みかけた。

 自分が作ったものを食べて喜んでもらったことが嬉しかったのかフィーネも釣られて笑顔を浮かべる。


「えへへ、良かったあ」

「ありがとう、フィーネ。トミオカさんもありがとうございます。とっても美味しかったです」


 アメリアがそう言いながらもう一口齧ると冨岡は照れ臭そうに言葉を返した。


「実はそれを販売しようと思っているんです。街のどこかで屋台を出して出来るだけ安価で。薄利多売ってやつですね」

「はくりたばい? 商人さんの言葉でしょうか。でも確かにこの味で安価ならいっぱい買ってもらえそうですね」


 噛むたびに溢れる肉汁を楽しみながらアメリアは冨岡の提案を受け入れる。

 何を売るかは概ね決定した。ハンバーガー以外にも取り扱っていた方がいいのだろうが、他のメニューは随時増やしていく方がいいだろう。そう考えた冨岡は次に解決すべき事案へと話を進めた。


「あとはどこで売るか・・・・・・なんですよね。大通りの市場で屋台を出せれば一番良いんですけど」


 冨岡がそう話すとアメリアは少しだけ表情を曇らせる。


「大通りの市場ですか。確かに人通りは多いですけど・・・・・・その、トミオカさんもご存知でしょうが既に店と屋台で隙間がない状態なんです」


 彼女の言う通り大通りの市場は数えきれないほどの店や屋台が建ち並んでいた。建ち並びすぎていた。人通りの多い場所には屋台を出すスペースなどもう存在しないだろう。

 さらにアメリアは不安要素を言葉にした。


「それに大通りの市場はほとんど全てが貴族の私有地です。屋台を出すためにはその場所を所有している貴族の許可が必要なんですよ。実績もない状態で貸してくれるかどうか・・・・・・」


 それは商品選定よりも大切で大変な問題である。

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