第61話 フィーネの素質
「冷たい! なんか変な感じ」
合い挽き肉の感触を自分なりに表現するフィーネ。冨岡は優しく微笑みながら説明を続けた。
「ははっ、すぐに慣れるよ。いいかい? 上から下に押し付けるような感じで捏ねるんだ。しばらくすると粘りが出てくるから、そしたら形を整えようね」
フィーネは理解力が高いのか冨岡が身振り手振りで説明すると特に困ることなくハンバーグを作り上げていく。
そんなフィーネを見ながら冨岡はこう呟いた。
「そういえばフィーネちゃんは話の理解も早いかったなぁ。動きにも無駄が少ないし運動神経もいいのかもしれない。学ぶ場さえあれば・・・・・・」
冨岡はフィーネの素質に何かを感じ始める。
そのままフィーネがハンバーグの形を整えると冨岡が作業を引き継いだ。フライパンで焼き、メルルズパンで作った時と同じようにパンに挟みハンバーガーを完成させる。
「よし、完成だ」
冨岡がフィーネに笑顔を向けると小さな彼女は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「わーい! どう、フィーネ上手?」
「うん、とても上手だったよ。これならアメリアさんも喜んでくれるさ」
「じゃあ、トミオカさんのお店で売れる?」
「え?」
まさかフィーネが自分の商売まで考えてくれているとは思わず、一瞬驚いた冨岡だが優しく頷く。
「もちろんだよ。フィーネちゃんにはお店の看板娘として活躍してもらいたいな。手伝ってくれるかい?」
「うん! フィーネ頑張る」
そう言ってフィーネは胸の前で両手を握りしめた。
するとその瞬間、フィーネの視線が冨岡の背後に移る。どうしたのかと冨岡は振り返るが誰もいない。
「ん? どうしたのフィーネちゃん」
「先生が帰ってきたよ」
微笑みながらフィーネはそう答えて冨岡の手を握った。
「え? だって何かが聞こえたわけでもなかったのに」
「ほんとだよ」
戸惑っている冨岡の手を引いてフィーネが食堂を出る。そのまま廊下を歩き教会の方へ向かうとアメリアが扉を開けて入ってきた。
「ね、フィーネの言った通りでしょ?」
得意げな表情を向けられた冨岡は感心しながら頷く。
「う、うん、そうだね。本当にアメリアさんだ」
そんな会話をしている二人に対して首を傾げながらアメリアが口を開いた。
「ただいま戻りました。どうしたんですか、トミオカさん」
「あ、いえ。お帰りなさい」
冨岡がそう言いながら微笑むとフィーネがアメリアに駆け寄り、彼女の足に抱きつく。
「お帰りなさい!」
「ふふっ、ただいま。いい子にしていましたか?」
「うん! 今日はね、トミオカさんと・・・・・・あ、ううん。なんでもない。後でのお楽しみだった」
言いながらフィーネは自分の口を手で塞いだ。どうやらハンバーガーを作ったことはサプライズにするらしい。
そんな思惑を察した冨岡はアメリアを食堂へと導く。
「アメリアさんもお疲れでしょうし、晩御飯にしましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます