第60話 フィーネ、初めてのハンバーグ作り

 手を繋ぎ、会話をしながら教会へと戻ってきた冨岡とフィーネ。冨岡は元の世界で購入してきた食材とメルルのパンを入れたリュックを背負っている。

 食堂に戻ってリュックを下ろすとフィーネが冨岡を手洗い場に連れて行った。

 外から帰ってきたら手を洗うのはアメリアの指導だとフィーネは笑顔で説明する。フィーネと同じように冨岡も手を洗い食堂に戻った。

 椅子に座ったところで冨岡がフィーネに問いかける。


「ねぇ、フィーネちゃん。アメリアさんにもハンバーガーを食べてほしいから夜ご飯もハンバーガーでいいかい? それともハンバーグと何か作ろうか」

「フィーネ、もう一度ハンバーガー食べたい!」


 嬉しそうに答えるフィーネの笑顔。それほど美味しかったのかと冨岡も嬉しくなる。

 

「じゃあ、一緒に作ろうか。ハンバーグを作るの手伝ってくれるかい?」

「うん! フィーネも作る。あれ? ハンバーグってハンバーガー?」


 そう問いかけてくるフィーネに冨岡は優しく微笑んだ。


「ほら、ハンバーガーにお肉が挟まってたでしょ? あのお肉のことをハンバーグって言うんだよ」

「へぇ、そうなんだ。何だか似ててややこしいね」

「ははっ、俺もそう思うよ。どちらとも語源は同じだったような気がするからハンバーグでもハンバーガーでもいいはずだけど、俺の故郷では分かりやすく肉だけのものをハンバーグ、パンに挟んだものをハンバーガーって呼んでるんだ。さて、じゃあ準備しようか」


 冨岡はそう説明しながらリュックからハンバーガーの材料を取り出す。

 すると先ほどの調理工程を見ていたのかフィーネが調理器具を取りに向かった。

 その背中を有難いと思いながら見送った冨岡だったが、包丁が必要なことに気づきすぐに追いかける。


「あ、フィーネちゃん。包丁があるから俺が準備するよ」

「フィーネ、大丈夫だよ」

「いや、そうかもしれないけれどフィーネちゃんが怪我をするとアメリアさんが悲しむよ。だからこういう時は俺を頼ってほしいな」


 言いながら冨岡は調理室で包丁とまな板、ボウルを手に取った。

 食堂の机に全てを並べると包丁が必要な作業は冨岡が終わらせ、材料をボウルに入れる。


「さぁ、フィーネちゃん。全部を混ぜてもらえるかい? ゆっくりでいいから粘りが出るまでね」

「うん! でもちょっと怖い」

「ははっ、大丈夫だよ。少し冷たいかもしれないけど危ないことはないさ」


 冨岡が促すとフィーネは意を決してボウルに右手を突っ込んだ。

 グチュと音を立てて卵が潰れ、フィーネの小さい手のひらは合い挽き肉の中に飲み込まれる。

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