第33話 人はそれを愛と呼ぶ

 冨岡は軽く笑いながらそう話した。

 自分でもどうしてこんなに真剣なのかわかっていない。源次郎の遺言や運命だと思える出会いなどアメリアを救いたいと思う要素はある。だが、誰かのために何かのために救いたいと思っているのではなかった。

 冨岡は冨岡自身のためにアメリアを救いたいと思っている。アメリアとフィーネを幸せにしたいと思っているのだ。

 人はそれを愛と呼ぶのかもしれない。もしくは偽善と呼ぶのかもしれない。

 けれど確かに冨岡の胸には熱く強く激る想いが存在した。

 アメリアは冨岡の言葉を聞き、思わず涙ぐむ。


「トミオカさん・・・・・・でも、一体どうすればいいのか」


 彼女の綺麗な瞳から透き通った涙が落ちた。冨岡に心を許し安心したからなのだろう。これまで様々な苦しみに一人で立ち向かってきたアメリアだからこそこのタイミングで涙が溢れてしまった。


「アメリアさん、大丈夫ですよ。多分俺はこのためにここにきたんです」


 冨岡は真剣な表情でそう言い聞かせる。

 意味のわからない言葉に戸惑うアメリア。


「え?」

「俺がなんとかしてみせます」

「でも・・・・・・どうやって・・・・・・」


 冨岡の勢いに押されながらもアメリアが聞き返した。

 聞き返された冨岡は少し考えてから自分なりの解決方法を話す。


「こういう場合、問題を分解して一つずつ解決していけばいいんです。今考えるべきは借金とフィーネちゃんが将来生きていけるような教育の場。あとはそうですね、安定した収入でしょうか」


 冨岡の言葉を聞いたアメリアは異論がないと頷いた。しかし、大切なのはその中身である。問題を分解して考えたところでどのようにして解決するのかがわかっていないと意味がない。


「確かにその三つを解決できれば教会の存続もフィーネの将来も悩まなくていいのですが、どれも簡単なことではないと・・・・・・」


 そう、簡単にできるのであればアメリアはこれほど悩み苦しんでいないだろう。

 この世界よりも技術の進んだ世界から訪れた冨岡といえど普通ならば簡単には解決できない。しかし、今の冨岡にはアメリアを救える自信があった。

 自身の源は百億円である。祖父、源次郎が残してくれた百億円。それが冨岡に勇気を与えていた。


「大丈夫って言ったじゃないですか。まずは借金からなんとかしましょう。えっと・・・・・・これってどれくらいの価値になりますか?」


 言いながら冨岡は右手の人差し指に着けていた純金の指輪(十五万円)をアメリアに見せる。

 この世界において金がどれくらいの価値になるかという確認だ。

 問いかけられたアメリアはまじまじと指輪を眺めてから顔を上げる。


「これは金でしょうか? すみません、私そういったものには疎くて・・・・・・むしろ商人であるトミオカさんの方が詳しいのではないですか?」


 そういえばそんな設定だったなと思い出し冨岡は慌てて言葉を付け足した。


「いや、その、この国での物価を知りたくて聞いてみたんです。じゃあ、例えば宿だと一泊いくらくらいですか?」


 なんとなく価値の分かるものからこの世界の物価と通貨を知ろうと探る冨岡。

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