第34話 エクスルージュの通貨と物価
冨岡に問いかけられるとアメリアは少し考えてから答える。
「そうですね、食事なしの宿泊で大体銀貨三枚くらいでしょうか」
「素泊まりで銀貨三枚・・・・・・およそ三千円くらいか」
理解するように呟いた冨岡だが、これ以上質問をすると自分がこの世界のことを何も知らないと白状するようなものだと考えた。
しかし、通貨や物価のことを知らなければ行動のしようがない。
冨岡はなんとか聞き出す理由を考えて取り繕った。
「俺のいた国とは随分物価が違うみたいですね。もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
「は、はい。国によって違うものなんですね。私はエクスルージュから出たことがないのでよく分かりませんが、なんでも聞いてください」
そう答えるアメリア。その言葉の中には聞き覚えのない単語が混じっていた。冨岡は深く考えずに気になった単語を繰り返す。
「エクスルージュ?」
「何を言っているんですか、トミオカさん。この国の名前ですよ」
言いながらアメリアは地面を指差した。普通、自分が今いる国の名前を知らないはずがない。そんなことは冨岡でも分かる。
自分の失言に慌てた冨岡は即座に言葉を付け足した。
「あ、いや、ちょっとど忘れしていただけです。ほら、色んな国を巡ってきましたから」
苦しい言い訳だと冨岡自身も思う。だが、国外に出たことのないアメリアはそういうものかと納得していた。
「そうだったんですね。確かに国によって文化が違いますから、他国の名前を知らないことも物価や通貨が違っても不思議ではありませんね。私の話を聞いてもらったのですからなんでもお答えしますよ。商人であるトミオカさんにとって情報は重要なものでしょうし」
まさに怪我の功名である。他国のことを知らずに生きてきたアメリアの知識と彼女の優しさが幸いし、怪しまれずになんでも問いかけることが可能になった。
安心した冨岡は機を逃さぬよう質問を投げかける。
「ありがとうございます。なんでも基本が大切ですから、当たり前のことから聞いてしまうんですよ。えっとエクスルージュで使用されている通貨の種類を聞いてもいいですか?」
「当たり前のことから理解しようという姿勢は確かに大切かもしれませんね。分かりました、それでは一番下の貨幣から。この国では小銀貨が最も小さい貨幣です。十枚で銀貨になります。銀貨は十枚で小金貨、小金貨は十枚で金貨、さらに十枚で大金貨ですよ」
アメリアの言葉を聞いた冨岡は先ほどの宿代からおおよその価値を計算した。
銀貨三枚が三千円程度ならば銀貨は千円。銀貨千円を基準とするならば小銀貨は百円だ。小金貨が一万円、金貨が十万円、大金貨が百万円だということも計算できる。
つまりアメリアの背負っている借金は二百万円相当ということだ。
「なるほど・・・・・・二百万円・・・・・・あとは金がどれくらいの価値を持っているのか、市場調査をする必要があるか」
考えながら冨岡は呟く。その様子を見ていたアメリアは言葉の意味がわからずに首を傾げていた。
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