第31話 白の創世
アメリアに促されたフィーネは目を擦りながら立ち上がって頷いた。
「うん、眠い。顔洗う」
フィーネは眠さから思考能力が落ち単語を並べるように話すと厨房の方に向かっていく。どうやら寝るための準備をするようだ。
アメリアはその背中を追いかけながら冨岡に話しかける。
「すみません、トミオカさん。ちょっとフィーネを寝かしつけてきますね。待っててもらってもいいですか?」
「わかりました。ここで待ってますね」
そう言って冨岡が見送ると厨房の方から水の音が聞こえてきた。バシャバシャと顔を洗う音である。
他人の生活音というのは関係性によって受け取り方が変わるものだ。今の冨岡にとってアメリアやフィーネの生活音は暖かく心地がいい。
その後厨房の方から扉を開ける音が聞こえ、音が途絶えた。どうやらフィーネの寝室に向かったらしい。
さらに待っていると足音を立てないようにアメリアが戻ってきた。
「お待たせしました。フィーネったら満腹になったからなのかあっという間に寝てしまいましたよ」
「ははっ、確かにお腹いっぱいだと眠くなりますもんね。喜んでくれてたみたいでよかったです」
冨岡が返答するとアメリアは可愛い笑みを浮かべる。
「フィーネにとって忘れられない食事になったと思います。本当にありがとうございます」
そう言われた冨岡はこちらこそ忘れられませんよ、と思いながらチョコレートによってとろけていたアメリアを思い出した。
アメリアほど美しい女性のそのような表情、忘れられるわけがない。
何だか照れ臭い気持ちになった冨岡が水を飲んでいるとアメリアはトミオカの向かいに座って話し始める。
「ふふっ、トミオカさんのおかげで幸せな日になりました。こんな日が続くといいんですけど・・・・・・」
唐突にそう漏らしたアメリア。自分にとって幸せな時間を過ごしたため、逆に向き合わなければならない現実を思い出してしまったのだろう。
彼女の言葉から未来への不安や抱えているものの大きさを察した冨岡は恐る恐る話を切り出した。
「あの、答えたくなければいいのですが、この孤児院について詳しく聞かせていただけませんか? 俺は自分に何ができるのかを知りたい」
「・・・・・・ここまでしていただいて何も話さないわけにはいきませんね。楽しい話ではありませんが聞いてください。世界にはありふれた話です」
前置きをしてアメリアはこの孤児院について説明を始める。
「路地裏でもお話しした通りここは『白の創世』という宗教団体が運営していた孤児院です。『白の創世』は世界中に支部を置く巨大な組織。各国で孤児院運営や貧困層への支援など慈善活動を行なっており、多くの人に支持されていました。しかし、慈善活動の裏で悪事に手を染めていたようなのです。世界中で孤児院運営や支援を行うことで各国の情報を手に入れ、戦乱を招きその地を支配しようと考えていました。けれど、その野望はとある英雄によって打ち砕かれ『白の創世』は一気に崩壊。孤児院は出資者を失いました。残されたのは収入を失った職員と身寄りのない子どもたちだけです。それでも私はこの場所を失うわけにはいきませんでした。借金をしてこの教会を買い取り、外で働きながら何とかフィーネを育てているという状況です」
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