第30話 アメリアとフィーネ
我に返ったアメリアはやはり記憶を失っているようで、自分が何をしていたのか覚えていない。
そんな彼女に恥ずかしい思いをさせないため、冨岡は優しく微笑み首を横に振る。
「いえ、何もしていませんよ。どうやらチョコレートが驚くほど美味しかったようですね」
アメリアに気を遣って何も起こっていないことにした冨岡。
ここではっきりしたのはチョコレートに媚薬効果があり、ミネラルウォーターにはそれを打ち消す効果があるということだ。
冨岡がチョコレートに対して恐れを抱いていると、フィーネがアメリアに話しかける。
「あのね、先生がトミオカさんにぎゅってしたいって言ってたんだよ」
「ちょ、フィーネちゃん」
冨岡は思わず言葉をかき消そうとした。しかし、その言葉はしっかりとアメリアの耳に飛び込み彼女の頬を赤く染める。
「え、私がトミオカさんにっ? そんな、そんなはしたないことを・・・・・・すみません! 何をしていたのか自分では覚えてなくって」
「いやいや、大丈夫ですよ。結局何もありませんでしたし、チョコレートのせいですからね」
そう冨岡が答えるとアメリアは恥ずかしそうにしながら首を傾げた。
「チョコレートの? そんな効果があるんでしょうか」
「いえ、普通はならないはずなんですが、食べ慣れていないとそうなるのかもしれません。お水を飲めば元に戻るみたいですし」
「確かに我を忘れるほど甘くて美味しかったですもんね。危険な食べ物です・・・・・・」
アメリアの言葉に冨岡は心の中で、ただのお菓子ですよ、と呟く。
そのまま苦笑いを浮かべた冨岡は残っているチョコレートを回収し、包装紙に包んでリュックの中へと戻した。実質封印のようなものである。
冨岡がリュックに片づける様子を名残惜しそうに見つめるフィーネ。アメリアはただ恥ずかしそうにするばかりだ。
二人の食事を終えると冨岡は菓子パンを食べながらアメリアとフィーネの会話を聞いてみる。
どうやらフィーネはアメリアに勉強を教えてもらいながら教会での仕事をこなしているらしい。今日は少しだけ文字の練習をした後に教会の床掃除をしたという。
「少し勉強が疎かになっているようですが、掃除をしてくれたのは助かります。偉いですね」
「えへへ。フィーネね、少しでも先生の役に立ちたいの」
「はい、いつも助かっていますよ。いい子ですね」
褒めながらアメリアはフィーネの頭を撫でた。
見ているだけで心が温まる光景に思わず冨岡は口元が緩む。
しばらくするとフィーネは眠くなってきたらしく、瞼が落ちてきそうになった。
その様子に気づいたアメリアは優しくフィーネに問いかける。
「おや、眠くなってきたんですね? それじゃあ、顔を洗ってお部屋に戻りましょうか」
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