第21話 鮭おにぎり

 人によってはそれを安い同情と蔑むかもしれない。しかし、冨岡はフィーネに対して何も気にせず食べてもらいたいという感情が湧いていた。


「ああ、本当だよ。フィーネちゃんはどんな食べ物が好きなのかな?」


 優しく微笑みながら話しかける冨岡。するとフィーネは少し考えてから笑顔を浮かべる。


「うーんとね、何でもいいからお腹いっぱいになれば幸せかな」


 無邪気に答えたフィーネだが、冨岡は質問を間違えたと反省した。おそらく食べ物を選り好みする余裕などなかったのだろう。

 慌てて冨岡はリュックを広げて見せた。


「じゃあ、この中から好きな食べ物を探そうね。えっと、アメリアさん。食事はどこでするんでしょうか?」


 冨岡は話題を変えて誤魔化す。問いかけられたアメリアはその場で立ち上がり、近くの扉を指差した。


「ここが食堂です。さぁフィーネ、手を洗って夕食の準備をしましょうか」

「うん!」


 そう言ってアメリアとフィーネは扉を開けて食堂に入る。その背中を追うように冨岡も進んだ。

 食堂に入ると大きな古い木製の机と六脚の椅子が置いてある。部屋の奥にはもう一つ扉があり、アメリアはその扉が厨房に繋がっていると説明した。

 大きな机と不要な椅子が多くの人間が暮らしていた過去を思わせる。

 それぞれの準備を終え、全員が椅子に座ると冨岡はリュックの中身を広げた。

 おにぎり、菓子パン、チョコレート、飴、ミネラルウォーター、保存食セットが机に並ぶ。

 フィーネは並べられた食料を物珍しそうに眺めていた。


「ねぇねぇ、これは何? ほんとに食べ物?」


 おにぎりを指差しながらフィーネが冨岡に問いかける。どうやらビニール包装されたおにぎりが食べ物だとは思えないらしい。

 すると冨岡は優しく微笑んで答えた。


「これはおにぎりだよ。米を三角形にまとめて海苔を巻いたものだね。中の具は鮭」


 冨岡なりにわかりやすく説明したつもりだったがフィーネどころかアメリアも理解できないようである。


「コメ?」

「ノリ?」


 わかりやすく首を傾げる二人。

 その反応からこの世界に米も海苔もないのだと判断した冨岡は急いでおにぎりの包装を剥がした。


「食べてもらった方が早いですよね。ここをこうして引っ張って、左右に広げると・・・・・・はい。これで食べられますよ」


 包装を剥いだおにぎりをフィーネに差し出すと彼女はまじまじと眺める。


「真っ黒・・・・・・トミオカさん、本当に食べられるの? これ」

「うん、大丈夫だよ」


 そうは言うもののフィーネは真っ黒な海苔で包まれたおにぎりを食べ物とは認識できないようだ。


「あー、じゃあ俺が食べてみるね」


 言いながら冨岡が食べようとするとアメリアが言葉を挟む。


「わ、私も食べてみたいです。私が大丈夫であればフィーネも食べられると思うので」

「あー、そうですね。じゃあ、半分こにしましょう」

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