第21話自由都市市長のお願い
「ならん。最優先は食料と人員の安定確保、即ち港からの道路だ。ドワーフ自治領への道を整備しても武具だけ、質は劣るが武具なら海運で調達可能ですらある。
その方らも食料は重要であろう、いや貴殿らには酒のほうが必要か。
……とは言え旅路で凹凸は苦になった故、魔法師だけは手配してやろう」
……俺の事を
逆に父か代官のほうが御しやすかったかもな。
彼らにとっては所詮、他人の財布、痛くもないなら判断も甘かろう、だがこれの源資は俺個人の金だ。
「シュルケン様、武具と言うのは重く嵩むものです。
道がぬかるめば当然、運ぶ事は困難になります……」
武器を理由にすれば提案に乗ると思っているようだが……その手は通用しない。
「自由都市から戦地に伸びる道路には土魔法での地面の硬質化し、硬質化した地面に砂利を撒けと言ってあるだろう?
何を焦る必要がある?」
「実は……この好景……需要拡大に伴って散り散りになっていた同族や同じ境遇の者、さらには鍛冶を学びたいと多種族が集まって来まして……」
こいつ俺の心証を悪くすると思ったのか戦争特需を好景気、需要拡大と表現しやがった。
確かに戦争状態は必然各技術は向上するし、勝手に人も集まる上自動で人員も(強制的に)入れ替わる。
だがそれこそ湯水のように費用がかかり、それを出してるのはこの俺だ。
「つまりは人が増え、住むべき土地も食い扶持も足りなくなったと……それで道路を整備してもらってより販路を広げる事でより稼ぎ、輸入している食品の値段を下げようと?」
「はい……領内では好景気で赤子も増えておりまして……」
ベビーブームも来てるのね。
朝鮮戦争で景気が回復し、ベビーブームが来た戦後日本と同じじゃないか。
必要なのは、小麦が余っていて売り先を探している米国のような国だが、そんな都合のいい国や領地は果たしてしてあるのだろうか?
「ふむ……」
俺は少し考えるフリをする。
それならむしろ海路からのアクセスを良くするべきだ。
しかし、海路の利点を理解できていないこの為政者にその事実を理解させることが出来るだろうか? 俺にとってドワーフは多少便利な鍛冶一族でしかなく、俺にとってその武器の性能よりも政治的に邪魔かどうかでしかない。
しかし王アダムズにとっては同族、それも臣民である。
中国と国内租借地のような二重統治体制ではなく、公爵領直轄地ならこんな捻じれはおきないのだが……今はコレを論じても仕方がない。
この世界の国ってのは、それぞれの都から漏れ出る光(威光)が照らすその範囲ってだけでしかない。
王や皇帝は単なる盟主で、それぞれの領地を治める貴族が事実上の王なのだ。
なので光が弱まる端は暗く、大きなモノには影ができる。
うん、実に面倒くさい。
婚姻や文化による緩やかな同化政策、と言う名の侵略がベストなんだがめんどくさい、ぶっちゃけうるさい奴らは皆殺しが楽だと短絡的になりそうになる。
ふぅ落ち着こう、マキャベリ的君主にはなりたくない。
「アダムズ
族長と呼ぶことで公式の場ではないと印象付け、ダメ押しで「あくまでも俺の意見だ」と念押ししてから話し始める。
「……思うに移民を受け入れ
移民には農耕を推奨し、税として穀物を徴収する……その代わり貴殿らドワーフは村を守る義務を負う。
こうすれば、低いコストで貴殿らを養う食を確保する事が出来る。
数年は食糧事情は悪くなるだろうが、家畜を潰し、酒にする穀物を減らしつつ穀物の輸入量を増やせば何とかなるだろう……」
「しかし今でも食料は足りないのです! ドワーフの王族として同胞が飢える姿は見たくありません!」
声を荒げアダムズは宣言した。
王を僭称し支配下にない事をアピールしたうえ、助けろと言うのか、ならばこちらにも考えがある。
「ふむ。ドワーフ族の王であるアダムズ殿の怠慢のつけを
俺の言葉にドワーフ族の使用人は短剣に手を掛ける。
暗殺未遂で自治権を奪って公爵直轄領にするのもアリだな……ドワーフ族の優れた金属加工業は出来れば抑え特産品にしたい。
だがアダムズを殺し、ドワーフ族の使用人を殺したとしてお飾りとは言えドワーフ族の市長は必要だろう。
ドワーフの王族、或いは血縁の近い貴族の娘を俺の妾にしてその子を次代の市長にし首輪を付けるのはどうだろう? だが、髭モジャは趣味じゃないし、ロリ体形ならまあありか? ……などと思案していると……
「辞めないかっ!!」
アダムズ市長は大声をあげ両手を広げると武器を手に取る使用人と俺の間に入って静止する。
度胸があるなぁ~
「しかし、余りにもっ! あまりにもで御座います……」
使用人の一人は手から短剣を落とすと涙を流し、膝から崩れ落ちる。
ええぇぇ(ドン引き)
他人の好意に縋る行為をしてそれが通らないから、実力行使で現状を変えようとするってテロリストと変わりないんだが……なんでちょっといい話風に何てるんだ?
そのメルヘンな思考回路が恐ろしい。
周囲の視線を浴び俺は使用人の言葉に答える。
「……短命のヒト族では諸君らドワーフ族何があったのか俺には判らん。しかし公爵家の歴史書を見る限りでは我らは貴殿らに棲む場所を与え自治まで認めた。代わりに貴殿らは武具を提供した。この契約にどんな間違いがある? これで互いの共生は終わっている」
「……」
俺以外の人物は反論することが出来ないようだ。
これ幸いと持論を展開する。
「『
兵力や労働力を差し出してくれると個人的にはありがたい。
『今の関係では年に武具XXX本を進呈し、大規模買い付けは公爵家の特権とする』と言うものになっている。
これは一種の関税となっており他の貴族や商人は『ドワーフ族製品は高い』と言う共通認識を持っている。
関税件ブランド戦略と言う奴だ。
例えばあるブランドで100万円で売っている洋服と同じデザイン、同じ生地で洋服を作って貰った所、旅費込みで15万円程になったという。
つまり通貨やブランド、宗教と同じく一種の『価値がある』と言う共通幻想を共有しているから価値があるのだ。
アダムズ市長は熟考すると、下唇を噛みながら言葉を紡ぐ。
「臣下として……公爵家に尽くさせていただきます」
「アダムズ様!」
嗚咽交じりのアダムズ市長の言葉に感極まったのか、白髪交じりの老齢なドワーフ族の男性が市長の名前を呟いた。
「爺、良いのだ。我らはもっと早くベーゼヴィヒト公爵家に降るべきだったのだ……」
二人で抱き合って嗚咽交じりに言葉を交わしている。
感動のストーリーなのだろうが、彼らの物語にとって
血を通じて支配するという最善の状態ではないものの、食料と言う命綱を通じてこの自由都市をベーゼヴィヒト公爵家に組み込めるのだ。まあよしとしよう。
「あくまでも俺は現公爵閣下の孫に過ぎん。確約は出来ないが、取次ぐらいはしてやろう……ここを立つまでに父上……公爵代行の元へ向かう人員を集めろ、警護はしてやるが食料や馬車は自分達で用意しろ。それと……食料支援は俺の商会で販売に来てやる」
「ありがとうございます」
アダムズ市長はそう言って礼をする。
ソファーにどしりと腰を落すと一気に疲れがこみあげて来る。
「三重の意味で今日は疲れた。後の予定は悪いがパスして旅の疲れと垢を落したい……」
「それでしたら……まず湯あみをされると良いでしょう。
用意をさせますので暫しお待ちください」
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