第22話湯あみ


 市長の言葉通り、使用人に案内された風呂だが……。


「ほう。これは立派だな」


 目の前に広がるのは立派な露天風呂を備えた施設、前世の温泉施設にも見劣りしない規模である。


「自治市はいくつもの公衆浴場テルマエを備え、日々労働者の疲れを癒しているのです」


「濡れタオルで拭うだけの他都市と比べ、衛生状態は良さそうだな……で、俺が入る風呂はどこだ?」


「貴人用の浴槽が御座いますのでそちらでお寛ぎ下さい」


 正直助かる。

他人のがぷらんぷらんしている光景はあまり気分の良いもじゃないし、成長面で男のプライド的なものも……な


「うむ」


 通常、貴族の入浴には介助の使用人が数名付く。

これは自身で体を洗う習慣がないことや、入浴には様々な事故が起きやすく、また襲撃された時に文字通り無防備だからだ。


 最初の頃は脱がせて貰うことを恥ずかしく感じていたが、慣れというものは恐ろしいもので……


「シュルケン様、少し筋肉が落ちたんじゃないですかぁ」


 子守メイドが服を脱がせつつ、腹筋や胸筋をペタペタと触りながら批評するのにも、割と平然と言い返すことができる程だ。


「ぐっ! 仕方がないだろう? 騎獣に乗っているだけで鍛練の時間が取れないんだから……」


「ですが腿は締まってますよ?」


「お前達も暇だからと焼き菓子ばかり食っていると太るぞ?」


「さ、シュルケン様石鹸でお体を綺麗にしますよ」


 そう言って泡立てた石鹸で体が洗われる。

 ハーブを配合しているためか爽やかな香りが鼻腔を擽る。


 石鹼自体は元々あったが高級品だった為、俺の商会が量産化に成功、お値打ち価格で提供し今や力商品の一つになっている。 

俺達が使うモノは付加価値付の高級品だ。



「髪はシャンプーで洗ってくれ」


「承知しておりますとも!で、私達も使って宜しいんですよね?」


「ああ、節度を持って使うなら文句は言わん」


 今までは石鹸で髪を洗って香油で保湿するのが基本だったのだが、リンス(コンディショナー)を作ったのでメイド達や母上の髪質と俺への評価はみるみるうちに良くなった。


「やったー」

「いえーい」

「シュルケン様愛してますぅ」


 と口々に俺をほめたたえる。この世界でも髪は女の命らしい。

湯あみ着越しでも判る程の胸の揺れは色々と身体に悪い。

十歳児での身体でなければもっと喜べたのだが……


「本格的に錬金術に手を出せれば、魔法を用いたもっと良いモノが作れるのだがな……」


「シュルケン様は多才ですので先生さえ見つかればきっと覚える事が出来ますよ! 楽しみですね。」


 洗い場で身体を丁寧に洗われた俺は、股間をタオルで隠しながら露天風呂に入るため屋外に出た。


「……っ! これは……」


 俺は思わず息を呑んだ。

旅行番組や動画でしか見たことないような野性味溢れる本物の露天風呂が広がっていた。


 この地独特な木々や草花、それに自然と調和する巨石。

浴槽として使われたそれらは角が取れ、身体を傷付ける事無く貴人が従者を連れて入浴しても広々と疲れる程の広さがある。



 湯煙は少なくまだ日が沈み切っていないせいか空は朱く染まっている。

 異世界日本風露天風呂と表現したくなるような空間だ。

 欲を言えば竹や紅葉が欲しかった。


「実に素晴らしい浴場だ!」


「シュルケン様、水場ではしゃぐと危ないですよ」


 メイドが窘めてくるが今の俺は、無敵スターモード俺の進撃を止められるものはどこにも居ない。


 じゃばーん。と音を立てて風呂に飛び込む。


「シュルケン様は立派なご活躍をされているのに、こういう時は子供っぽいんだから…」


 苦労が滲み出る長身のメイドは、目頭を押さえて考え込む。

濡れた湯あみ着がラインを強調するのを、気にしないように会話をすすめる。


「実際、まだ十歳だよ? 普段が確りしすぎなんだって、うちの弟が十歳の時なんかスカートめくりに浣腸ばっかり、ホントクソ餓鬼だったんだから……」


 小柄で元気っ娘メイドは、長身メイドの気苦労を慰めるも、その視線は長身メイドの胸と尻を凝視していた。

なかば無意識に自分の胸元に手が行くが、ないものに触れる事は無く、ただ空しく水気を吸った湯あみ着が鳴るばかり。


 色々な意味で見かねたややじみな優等生風メイドも会話に加わる。


「そうそうシュルケン様は大貴族で、オマケに当主様も当主代行にもあまり見て貰えない……だから自分を見て欲しくてきっと我慢してるのよ……」


 それは彼女自らの心の代弁でもあった。



巨乳好きは長身メイドをもてはやし、貧乳ロリコンは小柄メイドを目で追う。

そして地味な私は高倍率な両者を避けた、中途半端な使用人や冴えない騎士が声を掛けに来る。

もっと自分を見て欲しい! 代用品としてではなく!

そんな悲痛な叫びだった。 


 そう三者三様 隣の芝は青いのだ。


 三人のメイドは熾烈な屋敷内婚活バトルを戦う同士と言う訳で、今回もドワーフ製アクセサリーが安く手に入るという事で、倍率が高かったものの子守メイドとしての立場をフルに用い、随行員の地位を確保したのだ。





 お湯の注ぎ口はマーライオンやライオンではなく、岩が削られまるで小川が流れるかのようにチロチロと流れ込んでいる。


「極楽、極楽だぁ~~」


 鹿威しのような定期的に音のするモノがあった方がリラックスできるらしいが、個人的にこれで十分満たされる。

古代のスーパー銭湯ローマのテルマエは飲食・美容・整体・売春と何でもござれだったらしいけど、まぁ日本のそれも似たような場所だったし(収斂進化っぽい感じ?)



 しかし今の俺にはこう言うゆっくりとした一時は最高だ。

おさわりOKな女子と背徳的な長湯ってもの心惹かれるが、情勢も状況も、なにより年齢がそれを許さない。



「ちょっと貴方胸浮いてるわよ」

「ホントだ!」

「って貴方も浮いてるじゃないのよ!」


 わいわいキャッキャッとメイド達の女子トークが聞こえて来るだけで幸せだ。

 年頃の可愛い女の子と(湯あみ着を着ているとは言え)同じ湯に浸かり、その姦しい様を観察できる。

 前世で百合作品は苦手だったけど……これは良いモノだ。

後悔後に立たずとはいうけれど、実際もっと百合作品、アイドル作品を見て置くべきだった。


「いいじゃなないの普段から肩こりもしなさそうだし……」

「ムキーっ! 言っていい事と言っちゃっ行けない事の区別も付かなそうね!」

「まぁまぁ」


あれ? 案外そうでもない? 出来れば百合百合しい揉み合いイベントを早急に起こしてくれ! 出来れば俺が茹で上がる前に!


 まあしかし、ドワーフ自治領の次なる稼ぎ頭は思いついた。


 さぁいっちょ稼ぐぞ!

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