第23話 買い物をする
今日の俺は観光……もとい、視察として街に繰り出す事にした。
「おお……素晴らしい」
思わず感嘆の声が出る程、自治領の景観は素晴らしい。
く、地面は石で埋め尽くされており如何にも日本人がイメージする『中世ヨーロッパ』的な雰囲気を街並みから感じる。
しかし、石材は高価で割れやすくそのままでは道路の水捌けが悪くなるので下水路を整備しなければいけない。
できれば雨水と汚水を別けた下水網を作らないと、河川の氾濫や大雨の時に街に汚物が溜まって伝染病が蔓延しかねない。
現在世界中の大都市でも同様の問題があり、日本の東京でも汚水が消毒処理だけで垂れ流しになっている。
異世界の進んだ知識があるのだ。未来に起こると判っている問題は出来るだけ早く解決したい。
案内役のドワーフが解説を挟む。
「ドワーフ自治領はドワーフ族の高い土木技術によって、古の大帝国に勝るとも劣らない都市になっています」
「領都にも下水網だけでも取り入れたいものだ」
先ずは市長がオススメしてくれた商店に向かう。
当初は市長と会談をする予定だったのだが、市長側から「待った」が入ってしまい予定が狂ったためだ。
そのため、「お詫びと言っては何ですが……」と前置きをして兵や騎士達のお土産を買ったりする日になったのだ。
個人的にはもう一振りぐらい剣が欲しい。
出来れば刀を打てる鍛冶師が居れば良いのだが……
「着きました」
御者の言葉でドアが開く、メイドに手を取られ馬車の昇降台を踏み下車すると眼前に現れたのは煉瓦造りの立派な商店だった。
広さはデパートと同じぐらいの規模、武装した亜人が店内を巡回しているのは物々しいと感じるが、ここは高価な商品を取り扱う店なのだから仕方がない。
店に直接足を運んで買い物をするというのは久振りの経験だ。
何か欲しい物があれば商人に言って、屋敷にまで持ってこさせて品を吟味する為店に足を運ぶ事がなかったのだ。
久々の大型店舗にテンションが上がる。
店内の殆どが金属の加工品。
そして残りは……革製品だ。
「武具店と言った所か……いやしかし……」
なんで工具が置いてあるのだろう? 鶴嘴やスコップ、鍬や鋤など、農業や炭鉱業で使いそうなモノが多く存在し店内の雰囲気をカオスにしている。
「金属製品屋と言ったところか?」
そんなことを考えているとサー・アップルヤードが思考の邪魔をする。
「シュルケン様! 土産なのですが……」
お土産か邪魔にならなければ何を買ってもいいと思うんだが……
「購入を許可する。ただし著しく旅の邪魔になるものは輸送費を個人で支払う事、一律ではあるが購入補助を出す!槍でも剣でも好きなモノを買うと言い」
シュルケンの思わぬ言葉に同行している騎士に兵、従者に文官、メイドからもどよめきが起こる。
この世界に置いてドワーフ製と言うのは一種のブランドになっている。老若男女身分を問わず欲しがられるのがドワーフ製なのだ。
女や妻帯者……いい人がいる者は宝石やアクセサリーは無いか? と店員に確認を取る。
独身中年や若い奴ほど、ドワーフ製の武具を買いたそうに交渉しその値段の高さに驚いている。
「さて、俺も武具でも見るか……」
騎獣戦闘の際、最も強力な武器は、有効射程が長い武器……つまりは
しかし、この世界には遠距離武器として “魔法” が存在するため、原作のシュルケンが一応得意としていた弓は余り練習していない。
長剣を貰ったから……買うのは練習用と槍だな……
剣を実際に手に取って少しだけ鞘から抜いてみる。
斬れる武器を見極めるほど目が育っていないため、格好いいか格好悪いか程度でしか判断が付かない……
さてどうしたものか?
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥とは言うものの、くだらないマウントバトルに慣れた現代日本人の俺には少しばかりハードルが高い。
良くある転生・転移モノのように「鑑定スキル」とか「ステータスオープン」で性能が判れば苦労はしないのだが……
仕方ない。完璧な子供と思われ近い将来に「あいつは天才でも何でもない。早熟な凡人だ」と思われても良いように今回は恥をかこう。
こういう時は……
頭を動かす事無く周囲を見渡すと自分も武器を見たくて仕方がない! と言った様子の護衛騎士が目に入る。
その視線は俺や俺に近づく周囲ではなく、飾り気の少ない剣に釘付けとなっている。
護衛としてどうか? とは思うものの今回は丁度いい。彼に解説させてさも自分も知っているムーブを取ろう。
「そこの騎士よ。俺が練習に使う剣と槍を二つづつ選んでくれ……」
「私でよいのでしょうか?」
「構わん。あくまでも候補にするだけだ残りは店員に決めさせる……」
「ありがとうございます!」
「……訊いていたな? 商会の店員はどの武器を俺に薦める?」
俺の何気ない一言で店員の感情は爆発した。
「判りました。槍ですが……
「それぞれ二振りだ」
こうして俺は楽に優れた武器を手に入れる事が出来た。
褒美に剣を凝視していた騎士には、その剣をくれてやった。「ありがとうございます! 私はシュルケン様にこの身を捧げます!」とか言っていたが流石に大げさすぎると思う……冗談だよね? 後そのセリフは女性に言って欲しかった。
それと店員と相談して、母上、御婆様、エーデルワイス師匠と姉弟子のハハナさん、メイド達に土産のアクセサリーを買い、婚約者が出来た時に備えて他にも幾つか宝飾品を購入した。
しかし、ここにはあると思っていたのだが……ここにも刀はなかった。
「あの……お願いがあるのですが……」
俺は店員にあるお願いをした。
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