第20話ドワーフ自治領自由都市

 『ドワーフ』:種々な空想文献の通りの容姿で体毛は濃く、小柄で酒好きな陽気な気質、伝統的な住居は山壁を掘り家とする。

但し公爵領に棲む者は煉瓦造りや石造りの住居を好む。



 翌日の午後ともなると、街も遠目に窺えるようになった。

前方の街から見える煙は一般生活のそれとは異なり、かなり火力がありそうだ。


「炉の煙か……」


「流石はシュルケン様、博識ですね……」


 俺の独りごとに、以前こちらでモンスター討伐していた老騎士が答える。


「ただ、知識として知っているだけだ。

実際に一度でも見た者と比べれば劣る程の…な」


騎乗での会話にもだいぶ慣れた。

既に前線への補給路からも離れたため、道の状況は悪化している。

 

「流石に踏み固められただけの道はつらいな……」


 知識として砂利道でも、踏み固められただけの道よりはマシだと知っていたが、実際通ると段差もあり酷い心地だ。


「仕方がありません、金も時間も有限なのですからな……

段差がなくなっただけでも整備された道は移動がらくになります。砂利で補修されていれば尚よし、地面がぬかるめば移動さえままなりませんからな」


 流石は老騎士、その言葉に実感がこもる。


「早急に土系魔術師を派遣し道路整備を早めよう……整備された道路になれた俺には未整備の道は厳しい……」


 そう言って尻をさすって見せると老騎士は豪快に笑う。


「はっははは。それは贅沢病と言うものです」


 スライムのテケリを尻に引いていなければ、今頃俺の尻は今よりも痛かっただろう……


「そうかもしれないがな、俺はこの領地にしっかりとした道路網を張り巡らせたいと思っている。

国家の血は金と人だが、それらを動かす血管は道路だからな。

陸路、水路、海路やりたい事は山のようにある」


「夢のある話ですなぁ……そのためにはまず戦を終わらせなければなりますまい……」


 こうして俺達はドワーフ自治領『自由都市ドアルゴ』に入市した。


………

……


「お久しぶりですシュルケン様。

この度は十歳祭で使われる装飾品の御依頼と、当自由都市の視察と聞き及んでおります。

先ずは我らドワーフを代表して、十歳祭の慶事心よりお慶び申し上げます」


 そう言って深々と礼をしたのは、人間基準では少し小柄な髭面の男性だった。


「家族領民含め、皆が俺を支えてくれたからこそだ……」


 前世と同じく、乳幼児の死亡率は高い。

王侯貴族は回復魔法がある分生存率は高いが、それでも前世の足元にも及ばない。

そのため一定の年齢『十歳』までは貴族の子供であろうとも一族とは認められていないのだ。


 俺は市長であるドワーフの族長と会談していた。

 古くは、独立した国を保っていたドワーフの国ドアルゴ王国の血を引く族長が市長を世襲している。

 田舎の名士が議員や市長をやっている日本と似たようなものだ。

 現在の立場は下だが元王族、無碍に扱える存在ではない。


「我らドワーフよりシュルケン様に贈物が御座います」


 アダムズ市長がそう言うと執務室のドアが開き立派な剣が台座に乗せられ運ばれてきた。


「我がドアルゴ市一の名工と名高いドノバンが鍛え、市内一番の職人が細工を施し、付与魔法を掛けた一振り。

銘を『斬魔』と申しましす。

素材に聖銀ミスリル鋼を贅沢に使った一振りです」


 持って来てくれたドワーフが気を利かせ、説明の最中に剣を鞘から抜き聖銀ミスリルの輝く刀身を見せてくれる。


「美しい。まるで鏡のようだ……」


「お気に召したようでなによりです。

さらにこの剣には兄弟とでも言うべき短刀が二振り御座います」


 そう言うと更にトレイに乗せられた短剣が運ばれてくる。


「短剣は余程の事が無い限り宮殿にも持ち込むことが出来る貴族の最後の武器にして防具です。

又、人族の風習では好いた女性に短剣を送るとか。

十歳祭で婚約者が出来る事も珍しくありません。

そこで婚約されるお嬢様への贈物として一振り、ご自身の守り刀として一振り、計二振りご用意させていただきました。

……無論、婚約者様が増えるようであれば追加でご依頼承ります。」



 付け加えるようにそう言った。


ああ、「婚約者を独りにしろ」って捉えられかねない発言だと、思ったのか……確かに切り取って聴けばそう聞こえなくはないな。

土地を間借りしている立場として配慮したようだ。


 鞘の装飾はやや派手なものの、実用性を殺すことのないデザインに匠の技を感じる。

本身も両刃でやや肉厚な造りだが、婦女子に扱える重量な上美しい。 



「ふむ、これは良い品を戴いた。

お礼と言う訳ではないが公爵家からはワインと舶来の酒を送ろう……」


 俺の言葉に合わせて騎士達が酒樽を運び入れる。


「それは良いですなっ!」


「何、今まで対モンスター戦争に武器を提供してくれた事に対する礼だ」


「ありがとうございます。我らドワーフとしてもモンスターは怨むべき敵、協力は惜しみません……」


 アダムズ市長の言葉には強い怒りと悲しみの色が見えた。

 移住の原因なったのもモンスターだからだろうか?


「感謝する」


「さて、これはお願いなのですが……

ドワーフ自治領の道もあの綺麗な整備をしていただけないでしょうか?」


 最初に良いものをプレゼントして願いを乞う、これがドワーフ族の狙いか……

 確かに断り辛いよな、だが……俺は悠然と言葉を発する。

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