第32話パーティーから追放された冒険者プロスポーツ選手になる

 少し前まで冒険者をやっていた俺。

だがパーティーから「お荷物だ」と言われて追放された。

 

ダンジョンで囮にされたり、闇討ちされなかっただけマシだったと思うが、借金で購入した武器を取られてしまったので冒険者を続ける事は難しい。

 だが、感謝はしない。

 十歳で冒険者の真似事を始め、十年以上冒険者として活動し村をモンスターの危機から救いパーティーに貢献してきたと言うのに……


 その結末がパーティー追放とは……


 苛立ちを覚えた俺は、パーティーメンバーを殴ろうかとも思ったが分が悪いのでやめた。

 武器を持っている相手に素手で挑む程、頭に血は昇っていないかった。


 金銭が発生するとは言え、俺達は、俺は命を! 生活を救って来たと言う自負があったのだが俺が困っていると知っても救いの手を差し伸べてくれる事は無い。


 そんな俺のここ数か月の日常は、日がな一日酒を浴びる事である。

 酒に酔っている間と寝っている間だけは、辛い現実を泡沫の夢に出来るからだ。


 少ない有り金を飲み代に費やしていると……身なりの良い男、酒場の店主? に声をかけられた。


「アンタ、冒険者なんだって?」


 『冒険者』と言う単語が出て来ただけでも気が滅入る。

 木製のジョッキに口を付け、あんたと喋る気はないと態度で示す。

 それをみて酒場の店主は肩を竦めて見せ、周囲にダメだこれはと言うようなゼスチャーと表情を浮かべる。


「話だけでも聞いてくれたらジョッキ一杯、サービスするぜ?」


 そう言うとジョッキが二つ机にゴトンと音を立て乱暴に置かれる。

 無言でジョッキを奪い口を付けると再び肩を竦め話し始めた。


「この酒場のオーナーが新しい娯楽を始めるらしく、動ける奴を探しているそうだ」


「娯楽だと?」


 庶民の娯楽と言えば公開処刑や風俗、演劇、見世物、買い物程度だ。

 動ける奴が必要と聞いて先ず思い浮かんだのは剣闘士だった。


「剣闘士にはならないぞ?」


 予めけん制しておく。


「剣闘士なんかには誘わないよ」


「だったら一体何に誘うんだよ?」


 そう言うと店主が取り出したのは少し大きさや形は異なるものの子供の遊び道具として人気の高いボールだった。


「ボール遊びでもしろってか?」


 皮肉を込めた俺の言葉を聞いて、店主は表情を顰めることなく肯定する。


「ああそうだ」


「人をバカにするのも体外にしろ! 妄言に付き合っている時間はない!」


 そう言ってよく冷えたビールを一口で流し込むと席を立つ。


「まあ待ちな、この計画はベーゼヴィヒト公爵家が行っているものだホラでも詐欺でもない」


「……」


「簡単に言えば人よりも優れた動きで観衆を魅了するのさ……剣闘士みたいな……」


「遊びを見世物にするってことか?」


「ああその通りだ。高い柵で囲って入場料を取って遊びを見せる人……プレイヤーに収益の一部を渡す。俺達商人は、出店や歩き売りで金を稼ぐ理にかなっているだろ?」


「確かにな……」


 つまり、剣闘士がやっていることから暴力性を消した興行を行うということだ。


「で、そのためには動ける人間が一人でも多く欲しいって訳だ。冒険者らしい仕事なんて何一つないのに、学も腕も経験も無い冒険者はここを目指して毎日来やがる……」


 商人の言葉は悲哀に満ちたものだった。


「……商人の俺に出来る事は少しでも仕事を作って雇う事だけさ。シュルケン様見たいに新しい仕事を生み出す事は出来ないからな……」


「……」


「もちろん、お前さんほどの冒険者なら戦地に赴くもよし、田舎に帰って後進を育成するもここで少ない仕事を奪い合うのもいい。だが俺としては冒険者を諦めた奴らの為に第二の仕事その第一歩に協力してくれないか?」


 俺は悩むことなく言葉を返した。


「宜しくお願い致します」




………

……



 テニス、サッカー、野球、など様々な新しい遊戯……『スポーツ』の中で俺はサッカーと呼ばれる競技の選手になっていた。


 会場の土にはフワフワとした芝が育成されており、選手が怪我をしないように配慮されている。

 俺はそんな事を考えながら、芝のグラウンドを駆け抜ける。


 

 俺の動きを見て相手チームのディフェンダーが動き始めるがワンテンポ遅い。


「パスをくれ!」


 俺は手を挙げてボールを寄越せと、六番のミッドフィールダーの元傭兵にパスをくれと促す。

 元傭兵は一瞬で周囲を見渡して開いている選手の確認をする。

 そう、他の選手や相手チームマークされている選手の能力だと、ボールを取られかねない。

 だから俺にボールを回すしかない。

 嫌そうな表情を浮かべ、まるでシュートのような勢いでパスを飛ばす。


「追放っやれ!」


 俺が全力で走り抜ければ、なんとか爪先に届く。そんなポジションに鋭いパスが飛ぶ。


 追放って……改め考えても酷い仇名だ。

 信頼が厚いと言うべきか嫌がらせと言うべきか悩みどころだな……


ドン!


 足を大きく伸ばし爪先ボールを受けると、そのまま走り込み相手のディフェンダーを一人、また一人と華麗なボール捌きで抜き去るとゴールキーパーと睨み合う。


 ……だが緊張は全くしない。なぜならこの程度の事で緊張にはなれている。

 

強大なモンスター相手に剣一振りで立ち向かう事に比べればなっ!!


 俺は右足を振り上げて全力でボールを蹴る。

 足と顔の方向からシュートの位置を逆算したのだろう。相手チームのゴールキーパーは左に飛び込んだ。

 しかし、俺は靴の外側……小指側で弾く様に蹴る事で右足で蹴り出しても左にボールは飛んでいく――――。


 俺の地元の村にはサッカーに似た遊びである。

 足だけでボールを操り何回リフティング出来るか? を競う遊びなのだがボールを蹴るサッカーにも、ある程度応用が利く――――。

 だからこそチーム最年長の俺でも十分に活躍できる。


 ボールはゴールの右側へ大きな弧を描くようにして吸い込まれていく。


刹那。


 ホイッスルが数回吹かれ試合終了の合図となる。結果は1対5点と言う圧倒的な点差をつけての勝利であり、我がベーゼヴィヒト・オルカは次の試合へ駒を進める事となった。


「「「ありがとうございました。」」」


 選手や監督を含めた一同総勢40名ほどのメンバーが、一斉に礼をしお互いの健闘をたたえ合う。


 賭けをしてたと思われる。

 観戦客達の怒号の声が聞こえる。


「はぁっ? 金返せよ!」

「インチキだ! ジジイがあんなに動けるわけないだろ! こんな決闘が認められるものか!」

「返してよ。杖を質屋に入れて作ったお金なのぉぉおおお」


 かつてのパーティーメンバーによく似たやつらが絶望した顔をしている。

 いい気味だ。

 中には負け予想が濃厚だった俺達のチーム賭けた奴もいるのか、札をポケットしまい込んでいた。



「アンタ凄えストライカーだな。練習時間長いのか?」


 敵チーム。ベーゼルージュの10番でフォワードの選手が声をかけて来た。


「地元にボールを蹴る遊びがあってね。昔取った杵柄だよそれにもう年だからね……」


「もったいねぇ! もう少し若ければサッカーが全国区のスポーツになったても一線級で活躍できる選手だったのに……」


 と声を張り上げる。


「俺も年だからね……」


「来年から選手のトレードとチーム名の販売が始まるそうです」


「そうらしいね……」


 現在は暫定的に『ベーゼヴィヒト』の名が付けられているが、スポーツを楽しむ事が周知されるであろう半年後からチームの権利を販売する事になっている。

 商人や宗教関係者、貴族が買う事になると思われるが『オルカ』や『ルージュ』と言った名前は変わらない。

 文字が読めない庶民にも宣伝が出来るとしてスポーツ興行は、今や大人気コンテンツなのだ。


「来年はウチのチームに来てくれませんか? おれはあなたとプレイしたい……」


「じゃぁチームのオーナーに俺の事を推薦してくれよ」


「判りました!」


 半年後、俺はルージュの選手としてオルカを共に倒す事になるのはまた別のお話……

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