第41話詰将棋

 あちこちからシャドウウルフの遠吠えが聞こえる。

 陽動部隊が入って行った入口以外にも、抜け穴のいうな場所が廃鉱跡地にはありシャドウウルフ達は俺に敵が来たと知らせているのだ。


「フム。やっぱり戦わず逃走を計る者は少なくないようだな」


「そのようですな……」


 シャドウウルフの戦闘力は決して高い方ではないものの、武装した村人程度であれば勝利を収める事は容易だ。

 群れともなれば兵でも単独で勝つことは難しくなる。

 多少、修羅場を乗り越えたとはいえ所詮は盗賊。シャドウウルフの相手になるハズはないのだ。


「どうやらこちらにも敵が来たようだぞ?」


 俺の言葉を訊いて馬の手綱を握っている騎士以外の全員が剣を構える。


「シュルケン様はおさがり下さい」


 老騎士ローエングリンドが予め俺を諫めるが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに腰に配した長剣を抜剣する。


「行けませぬ! シュルケン様の玉体に何かあっては取返しが付きませぬ!」


「安心しろ、剣は抜いたが俺が手ずから『斬る』とは言っていない」


 切っ先からパチパチと電気が迸り火花が飛び散る。

 空気中の塵を焼き払いながら蛇行する竜蛇のように、空中を縦横無尽に這い回り紫電が迸る。

 刹那。

 雷撃が盗賊の右肩を穿つ。


「ぐはっ!」


 肩を撃ち抜かれた盗賊は膝から崩れ落ちると、左手で右肩を抑え顔を上げ俺を睨み付ける。


「武装を解除し降伏しろ! さもなくば命は無いと知れ」


 武力を見せつけてから優しい言葉を投げかける……まんま飴と鞭だ。

 黒船で武力をしめしたアメリカに対して徹底好戦するように言ったバーサーカー共が居たように、こう言った小規模な交渉事でもそう言ったバカは出て来る。


「誰がテメェの妄言なんて真に受けるかよっ!」


 声と剣が震えている。

 コチラから見れば強がりだと一目両全なのに見方からすれば勇気のある奴に見える不思議……


「あ、そう……」


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁッ!!」


 俺の返事を訊いて激高した賊が、大振りに剣を構え襲い掛かる。

 だが俺の剣の前には児戯に等しい。

 しかし、『剣を使わない』と言った手前今更剣を使うのは恥ずかしい。前言を撤回するにしてももう少し、こう何かあるはずだ。


「全てが遅い」


 自身の後方に生成した空気弾エアバレッドを発射し、相手の剣の軌道上に放ち剣を弾き体制を崩させる。

 盗賊は何が起こったのか判らないとでも言いたげな表情を浮かべると顔色が青くなる。

 鳩尾と顎に追加で一発づつ空気弾を命中させ意識を刈り取る。

 『魔法』と言う圧倒的なアドバンテージを見せつけられた盗賊達は、武器を捨て投降の意思を見せる。

 

「か、確保ぉ!」


 腰に下げた縄で盗賊達を縛り上げ取り押さえられていく。


「ふう……」


 思わず気の抜けた溜息がでる。

 多くの騎士が居る前では指揮官である俺が気を抜いている姿を見せる訳にはいかない。


 オゾンの特有のプール何かで香る青臭い特有の刺激臭と肉が焼ける匂いが鼻に付いた。

 暫く肉は食えそうにない。


 さて、強襲部隊は上手くやっているのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る