第43話お調子者の騎士《ヘイヴィア》
一方その頃。
ヘイヴィア率いる陽動部隊は槍を構えた盗賊と対峙していた。
まるでここから先へは行かせないと言わんばかりに、頑なに坑道の前から動こうとしない。
宝槍と呼んでも差し支えない業物の穂先が月光を反射しキラリと輝いた。
息を付く間に鋭い突きが二度放たれる。
ヘイヴィアは己が躰に魔力を巡らせ、身体能力を強化し一振りの剣だけで刺突を捌く。
「ヘイヴィアさん!」
後輩騎士がヘイヴィアの名前を呼ぶが、生憎と後輩を気にかけるほどの余力は今のヘイヴィアにはない。
「悪がそっちの手助けは出来ない!」
喋っている合間にも攻撃は止まらない。
「坑道の中とけん制しつつ隙を見て攻撃、余裕があれば槍使いを攻撃しろ!」
何とか隊長として命令をだすのがやっと。
それほどまでに槍使いの腕と、武器の間合いの差というのは大きい。
少しのミスで大怪我を負いかねない。
今の自分にできる事は一秒でも長くコイツを足止めし、シュルケン様かアンドリューの到着を待つことだ。
相手の狙いはなんだ? 時間を稼ぐ事? もしかして俺達が囮である考えに至っていないのか? ……それならばなおのことここで時間を稼ぐのがベストだ。
コイツの突きは恐らく盾や鎧をも貫く。それは武器の性能によるものなのか、本人の腕前によるものなのかは正直言って判らない。ただ朧気ながらにも判るのはコイツが危険だということだ。
しかし敵の攻撃は一巻して突きの一辺倒。まるで狭い屋内での戦いを基本としているような攻撃方法だ。
通常槍というのは、斬る、払う、叩く、突くという四つの戦法の内戦場では叩く攻撃が主になる。
古今東西を問わず槍は農民や戦士達に愛用されてきた武器で、他の武器に比べ習得が比較的容易だと言われている。
だが槍にも弱点がある。
一つは柄の長さによる取り回しの悪さ、穂先の反対側に石突と呼ばれる金属製のモノを取り付け、打撃性能を上げ解消する事が多い。
二つ目は本来の重さよりも穂先が金属でできているため重く感じやすい……簡単に言えば疲れやすいのだ。
これらは長柄武器全般に言える事だが剣よりも習得が用意で、リーチと速度が速いものの疲れやすいのだ。
つまり守りに入れば相手の体力を削る事は出来るものの、相手のリズムに乗せられ負ける。
こちらから責めても負ける可能性が高いという訳だ。
仲間に頼るのは自分の性にあっている。
しかし頼り切るのは俺のプライドが許さない。
尊厳と仲間を信じヘイヴィアは力強く地面を蹴り出した。
「はぁぁぁあああああッ!」
カン! と快音を立ててヘイヴィアは剣を振り降ろし槍を弾き打ち上げた。
馬鹿な……と言わんばかりに今の今まで無表情だった槍使いの目がまんまるになる。
しかし、動揺は一瞬で消えた反撃に移る。
後方へ一歩、踏み込んでいた右足を刺すように抜くと手を入れ替えると槍の柄が強くしなりながら、槍が振り下ろされる。
まるで剣豪の袈裟斬りのように堂に言った所作は美しいの一言に尽きる。
だが、見惚れてばかりもいられない。このままでは芸の鑑賞料が己の命となるからだ。
ヘイヴィアはここで敢えて一歩前方に踏み込む決断をした。
全てはヘイヴィアにとって頂点と形容すべきその一撃を、撃ち落とすために……
ヘイヴィアは、槍の柄目掛けて剣を振り降ろす。
カン! 快音を立ててヘイヴィアの剣が槍の柄を折ったのだ。
幾ら穂先と使い手が優れようとも、柄の部分がただの木であることをヘイヴィアは見抜いていた。
「「「「「「ロックバレッド」」」」」
仲間たちは矢の雨を浴びせるように槍使いと背後と側面を守るように布陣した賊達に魔法を浴びせる。
先ほどまでと打って変わって、大道芸のように槍の柄をグルグルと回し石の礫を防ぐが何発も、何発も必要に発射し浴び去られる礫は皮膚を裂き血を出させる。
しかし槍使いが諦める事は無い。
だが、次第に体力が尽きていくのか目に見えてその動きが悪くなり可愛がっている後輩の放った礫が眉間に当たり、バタリと音を立てて地面に大の字に倒れ命が尽きる。
あとどれほど早く剣を振っても遅く剣を振っても俺の命は無かっただろう。
認めざる得ない。武器の質も武芸の腕も、才能も、経験もその全てにおいて槍使いには劣っている。
奴になくて俺が勝っていたのは、仲間を信じる事が出来たかどうかだ。
他の盗賊をけん制しながら、目線や手、脚運びに至るその全てが俺を助けようと動き槍使いの集中力を確かに奪っていたのだ。
これは俺一人の勝利ではない。
仲間あってのものだ。
だがこれは試合ではない。命を懸けた真剣勝負、勝つか負けるかその二つしか結果はないと思っていた。
ヘイヴィアは槍使いの死体に近づくと槍の穂先を拾って、槍使いにまるで誓いの言葉を立てるように呟いた。
「この槍の穂先は俺が貰っておこう……貴殿のような槍の名手になれる……とは思えないがいつの日か超えられるように……」
こうして『
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