第44話盗賊の頭

「シュルケン様……私はご自身自ら戦わないようにお願いしたつもりだったのですが、どうして自ら戦になられるのですか?」


「その方が “被害” が少ないからだ。騎士達も俺も夜通しの行軍で心身共に疲労が溜まっている……ならば魔力にも余力のある俺が魔法で始末する方が “合理的” だ」


「しかし、シュルケンさまに何かあっては御当主様に申し開きのしようが御座いませぬ」


「やれやれ言いつけは守ったのだがな……」


「今は言葉遊びを――!」


 そんな事をはなしていると、穴から必死の形相で盗賊達が現れた。


「新手か……」


 俺は小さく呟くと鞘に戻した剣を抜く。


「行けませんぞ!」


 老騎士が注意するが今はそんな些事はどうでもいい。

 目の前の敵を葬るだけだ。

 魔法を発動させようとした瞬間、礫が顔の横を通り過ぎる。


「ほお……」


 身体強化の魔法を使って石を投げたのか……少しは出来る奴がいるようだな……

 礫が飛んできた方に視線を向けると頭一つ以上大きい大男が目に付いた。

 ニヤリとした笑みを浮かべる表情には品性を感じさせない。


 周囲の盗賊達は礫の直後に騎士達に白兵戦を仕掛けたようで皆鍔迫り合いや袈裟斬りを回避したりと大忙しだ。

 戦うなと言われたが状況的に仕方がないだろう。

 騎士は一体多数を強いられており、人数以外の全てが上回っていると言っても連戦と長距離行軍に徹夜でヘロヘロだ。

 俺に助力する余裕はないだろう。


「シュルケン様! 行けませぬ!」


 鍔迫り合いをしながら顔をこちらに向けて老騎士が制すも俺はそれを無視した。


「大男よ。俺が相手になってやる!」


 大男は俺の言葉を聞いてフンと鼻で笑うと馬鹿にするように剣を肩に担いだ。

 つまり男はこう言っているのだ。「お前程度のガキを相手に構える必要はない。さぁどこからでも掛かって来いよ」と……見え見えの誘いだが乗ってやろう。

 相手の策を正面から打ち砕く……それが王者の戦い方だ。


「乗ってはなりませぬ! 逃げるのですシュルケン様!」


 老騎士の懇願を無視し、俺はゆっくりと歩みながら剣を構える。


「『賊狩り』のシュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトと呼ばれ、煽てられようとも所詮ただの十歳児、今までは副官が手柄を立ててくれたんだろうが、真剣勝負の剣の世界には産まれの貴賤は関係なんだぜ?」


横一文字に振り抜きを後ろに跳んで避ける

追撃の袈裟斬りを剣で弾いて往なすと魔法を一発ぶち当てる。


「中々やるようだが……俺は元騎士だ! その程度で負けるかぁぁあああ!」


 そう吠えると距離が空いているのにも関わらず袈裟懸けに剣を振るう。

 俺は剣の軌道上から体をズラし回避するが、背後の木々が音を立てて倒れる。

 

 

「刀身が伸びた? 斬撃を飛ばしたのか……『飛刃ひじん』……或いはそのなりそこないか……」


 『飛刃ひじん』とは魔力を扱って戦う『騎士』や一部の冒険者や傭兵が用いる武技の一つで、魔力を刀身に纏わせ射程距離を延ばす技で他の技よりも射程と燃費に優れる技だ。

 しかし、大男の飛刃ひじんは何と言うか不格好。何となく使えるだけと言った不安定さを感じさせる。


「どうだ『飛刃ひじん』は? 騎士や冒険者の中でも使える者は国や高位貴族が大枚を叩いて雇い入れると言われる絶技は? どうだ恐れ入ったか?」


 大男はガハハハッと豪快に笑う。


「それが『飛刃ひじん』? それは『飛刃ひじん』と言う技への冒涜だ。貴様の言葉を借用するのなら絶技への冒涜と言っていい」


「このクソガキがぁぁあああああ粋ッってんじゃねぇぞぉぉぉおおおッ!」


 可視化出来る程の魔力による強引な身体強化によって盗賊の身体は悲鳴を上げる。

 目は出血によって真っ赤に変色し、躰のあちこちが出血している。

 魔力操作が疎かなのだろう。

 地面にヒビを入れ俺の正面から盗賊の男が消える。


 テンプレなら後ろか上か……面倒だ。

 俺は刀身に込めていた魔力を表面に漏出させ剣を振るう。


「『黑嵐こくらん』」


 刀身に纏った魔力は剣を逆袈裟に振るう最中で分離し、まるで『飛刃ひじん』のように飛んでいくその数は無数でありまるで黒い竜巻のようである。


「馬鹿なッ! 『飛刃ひじん』それもこれだけ大量の『飛刃ひじん』を生み出すなんて何て魔力量をしてやがるッ!!」


 『飛刃ひじん』等は魔力を直接操るため、基本属性適正の影響を殆ど受けない。

 そのため俺にとっては相性のいい魔法剣技となる。


 大男は揺れ動く魔力を纏わせた剣を振って『飛刃ひじん』を迎撃する。

 ……が何発か被弾し、素肌や鎧にダメージを与える。


「ビビらせやがって俺の『飛刃ひじん』を出来損ないと言ったクセに、お前の『飛刃ひじん』は数が多いだけ斬ってたのも肌を少し斬った程度。ロクな威力もアリはしない……」


「勘違いしてるようだな? 『黑嵐こくらん』は所詮、雑魚を蹴散らす範囲技……しかし強者の精神を削るぐらいは問題ない」


 そう言って俺は左手で賊の鎧を指さした。

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