第5話魔法その2:御家流魔法
魔法はその使い方で大きく四種類に分類される。
相手を傷付ける事を目的にした【攻撃魔法】
誰かを守る事を目的にした【防御魔法】
誰かを癒す事を目的にした【回復魔法】
誰かを手助けする事を目的にした【補助魔法】
例えば火の攻撃魔法や土の防御魔法など、ある程度属性により向き不向きはあるものの、どの属性でもこの四種の効果を得ることは出来る。
魔法適正は個々人のものではあるが、古くから属性や効果に拘りブラッシュアップをしてきた一族(貴族家)ごとに、その使い方に特徴が現れるのもまた当たり前のことと言えよう。
これが『御家流』などと呼ばれる魔法技術である。
火属性で有名な炎神と称されるアイギス公爵家や、凍神と称されるクリスタフロスト公爵家など、やはり見栄えする攻撃魔法系の認知と評価は高い。
魔法属性が判明したシュルケンが次に訪れたのは父の元、本日は父自らが相伝の魔法を指南するために時間を割いていたのだが…
「シュルケンよ……我がベーゼヴィヒト公爵家相伝の魔法は知っているな?」
「……【召喚魔法】だと聞いております」
そう! 我が公爵家の相伝魔法(御家流)はその4種の使い方のいずれでもない、【召喚魔法】なのだ。
予め人払いがなされた石畳の上には、円陣を基本とした複雑な幾何学模様が描かれている。
薄っすらと発光している様から水銀と魔石の混合液によって描かれた魔法陣のようだ。
「御家流と言われる相伝魔法は
当家御家流【召喚魔法】は属性を意識する必要がない。
言い換えれば魔法資質さえあれば理論上、誰でも使えるということだ。つまり当家だけの武器たりえないという事を常に意識しておくようにする必要がある。」
「しかし当家の御家流【召喚魔法】は我々ベーゼヴィヒト公爵家を常に強者足らしめている。何故か!それは召喚モンスターを選択することで高い汎用性を得ることができるからだ。
反面、制御に非常に高度で繊細な技術を求められる為、しっかりマスターするように!
当家御家流の本質は【召喚魔法】の運用技術にあるといえる。」
「確かに、汎用性の高い便利な術なのですね。」
「つまりこの術は事前準備ありきのモノで絶対無敵の魔法ではない……そして技術さえあれば誰でも身に着けられるものだということですね」
「その通り、よって部外者が居る場での使用を禁ずる」
「わかりました……」
「では、先ずは俺が手本を見せよう……」
父の全身に魔力が稲妻のように迸り魔法陣に魔力が供給される。
少しずつ黒い霧が魔法陣から立ち込め石作りの室内に充満していき、突如、爆発的な魔力が用を成した。
グルルルルゥ! と低い低音で唸ったのは双頭の魔犬であった。
黒い毛並みに鬣の一つ一つは編み込まれたように太く、尾は蛇になっており、魔犬の様子は酷く落ち着きがなく見える。
「魔獣オルトロスか……中々のアタリだな……」
父は安心したような口調で呟いた。
見本を見せる時にしょぼいモンスターを召喚するとメンツが立たないという事だろう……
「魔獣よ俺に従え」
その一言によってモンスターは吠える。
「ぐっ! モンスターとの契約は魔力を代償に行うことが多い。そのため我が家では、宝石に魔力を貯めておいたり魔石から直接魔力を供給することでモンスターを従えるのだ!」
魔石に魔力を貯め必要な時に使う……コレも知識を秘している御家流の一部だろうと推察する。
力強く叫んだ父の額には珠のような汗が浮かぶ
急激に魔力を消費する精神的疲労感と闘っているのだ……
数分の格闘の末に、魔獣オルトロスを従えることに成功したようだ。
父の顎からはポタポタと汗が雫となって垂れ、たった数分で上着の首回りの色が変わっていた。
「手ごわい相手だったが、召喚したモンスターを従える事に成功した。これで魔力が尽きるまでは従ってくれる」
父は部屋に置かれた木箱の上に腰を降ろすと、ポッドに口を付け浴びるように水を飲む。
と息も絶え絶えと言った様子で説明を始める。
「見た通り、召喚魔術はこの世界或いは異界よりモノやモンスターと言った存在を呼び寄せるもので、対価を支払う事で契約を成立させることが出来る。我が家ではこれら召喚魔術で呼び出したモンスターを『召喚獣』と呼び通常のモノとは区別している」
「それで私にも召喚魔術をやらせてくれるのですか?」
「もちろんだ。魔法陣を描くことから始めたいのだが……魔法陣は魔法の勉強が進み座学が追い付いてからとしよう」
「はい」
「魔法陣の前に立ち円の外周の水銀に触れないように気を付けながら、床に手を付きゆっくりと魔力を流すんだ」
父の説明通り魔力を流していく……
しかし、見様見真似の回復魔法以来、教師役の魔術師から座学ばかり教えられている今の俺にとって、一定の魔力量を安定して流すのは些か骨が折れる。
何度もプロミネンスのように体表から爆発的な魔力が弾けうねる。
例えるのならば、瀑布を落ちる水をビーカーで掬いメモリ分まで入れるのを繰り返すようなものだ。
当然のように魔力の供給量はブレる……
「魔法陣に供給する魔力量は一定に保て! ある程度魔法陣に組み込まれた魔法が魔力量を調整するとはいえ限度がある。
魔法陣を焼き切るつもりか!!」
と父親から檄が飛ぶ。
確かに50で注がなきゃいけない魔力量に対して偶に130で注いでいるけど……初めてだから仕方ないでしょ? と思ってしまう。
父の説明によれば、この魔法には家電に搭載されている電圧調整器のような魔法が組み込まれているらしいので、失敗を恐れず魔力を注いでいく……
少しずつ黒い霧が魔法陣から立ち込め石作りの室内に充満していき、突如、爆発的な魔力が容を成した。
「出来た!」
「気を抜くな!」
強い言葉で叱責が飛ぶ。
黒い霧が晴れるとそこには、水玉状の青い何かがいた。
大きく可愛らしい楕円形の瞳は真っ直ぐに俺を見据えている。
俺に近づこうとボールのように跳ねるが、召喚陣に組み込まれた結界によって阻まれている。
表面はぷるぷるとしており、ゼリー状と言うかシリコンのようにある程度形状を保っている。
「スライムだな……」
「スライムですか?」
大体の創作物ではゴブリンと並ぶザコモンスターの代表格で、人気の高いモンスターだ。
「当家では、モンスターの召喚に失敗するとスライムになると言われているが、世界中にスライムが居るため本当かは判らんがな……記念に使役するか? まぁ役には立たないと思うが……」
父の言葉からは、他のにしろ。と言うニュアンスを感じるもののスライム好きの俺としては、それを捨てるなんてとんでもない! だ。
「可愛いですし、初めての召喚獣なので大切にしたいです」
「そうか、私が最初に召喚したゴブリンは魔法の的にしたものだが……スライムでも同じことが出来るだろう……お前の召喚獣だ好きにしなさい」
「はい」
魔法の中でぴょこんぴょこんと跳ねるゴム毬のようなモンスター『スライム』と契約を交わした。
これはいいクッションになるぞ!
さて、名前は何にしようか? 有名なスライムは数いれども……コレと言ったものは無い……
俺はスライムを抱きしめながら、スライムの名前を考えるのであった。
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