第4話魔法その1:一般魔法

 ――――魔法――――

 それは前世の世界では物語やおとぎ話の中にしかなかった空想上の概念。

だが、この世界においてそれは確かに実在する技術体系だ。

そんな魔法適正の判別のため、今日は家臣の魔術師を訪ねていた。



「……では、若君の魔法適正を調べさせていただきます。」


 紫紺のローブに身を包んだ長髯の老人はそう言うと、幾つかの道具を部下に命じてシュルケンの前に置かせる。


「よろしく頼む」


「先ず魔法適性と魔力量は、基本的に血統で受け継がれます。

父親が火で母親が水であれば、火だけ水だけの可能性、その両方が使える可能性、そしてそれ以外の場合が御座います……」


 なんだか生物で習うメンデルの法則染みた話だな。

しかし、両親と違う適正・・・・・・・か……貴族特有の闇を感じる。

祖父母世代からの隔世遺伝や養子縁組など表立った理由のならまだしも不倫托卵って可能性も……まぁ真相は藪の中ってやつだ。



「貴族以外に魔法を使える者はいないのか?」


「少数ながらおりますが、実際その家系を辿れば貴族に辿り着くものが殆んどでございます。

神や聖霊から力を授かった聖者が魔法を使えるなどの記述は御座いますが、元が伝承ですから確証はありません」


「なるほど! つまり貴族を特別な存在足らしめているのは“魔法”と言う訳だな」


「その通りでございます。貴族には魔法に由来する聖印クレスト或いは聖紋と呼ばれる紋章が刻まれます。

聖印は大・中・小とと三段階に分類され、貴族としての正当性血の濃さを表す指標でもあります。

実際魔法が使える者でも小聖印にすら満たないことがございます。

この為より上級の聖印を求め、成り上がり者は高位貴族の娘を妻に迎えたがるのです」



 この聖印と言う言葉には聞き覚えがあった―――


―――神話と古代史の丁度間の部分に 『騎士大帝』 と呼ばれる盟主とその盟友たる諸侯を始祖とする普遍的な英雄神話があり、絵本にもなっている。

それが各国の建国神話へと繋がり、今日の王侯貴族が民を治める根拠とされている。

その根拠となるのが聖印だと教科書で読んだ記憶がある。


いわゆる王権神授説ってやつだな。



 ―――つまり、貴族の権威の象徴が『魔法』と『聖印』なのだ。


「それで、当家の聖印はどうなのだ?」


「大聖印となっております」


 やはり公爵家、大聖印でないと格好がつかないな……


「それで、どうやって適正を調べるのだ?」


「正確な診断は、王都より派遣される『属性鑑定官』によって判定をされますが……大まかな判断は出来ます。

一例をあげれば属性を帯びた魔石に魔力を流す方法、これは魔力があっても適正がなければ魔法は発動しません」


「一例ということは他にもあるのか?」


「御座います……特殊な魔力の籠った水『魔力水』に魔力を流すことで最も得意とする属性を判断できます。他には魔力に過敏に反応する特殊な植物の葉を用いる方法もありますが……属性魔石を用いる方法であれば、すべての属性に適正があるのかを見極めることが出来ます。半面、一番得意なモノは判別が難しいのですが……」


「他の方法を組み合わせることで確度の高いモノになるという訳か……」


「その通りでございます」


 老魔法師は満足げに頷くと、赤、青、緑などの色とりどりの強大な結晶の前に立つとそれを指し示した。


「さぁ、石に手を触れ意識を集中し魔力を流してみて下され、適性があればそれに即した現象が生じます……」


 この世界には希少属性と言われるものがあり殆どの人間が、『火』、『水』、『風』、『土』、『雷』の基本属性しか使用できないが中には、『光』、『闇』などの珍しいものに適正を示すものもいる。

 五属性全てや全属性に適正を示す天与の才を持つモノもいれば、努力によって後天的にその属性を使えるようにした人間もいるという……


 まぁ原作でのシュルケンは氷の槍や回復魔法を補助的に使ってはいたものの、メイン属性は『闇』だった。

他があるとは思えないが念のため試しておこう……


 石に触れ順々に魔力を流していく……


「火が噴き出たぞ!」


「水もだ!」


「風も吹いたぞ!」


 と、部下らしき魔術師が騒ぐ……


 どうやら俺には天賦の才があるらしく、全ての属性石が反応した。


「まさか全属性に適正を示すとは……お辛くはありませんか?」


「大丈夫だ。続けよう……最も適正のある属性を知りたい……」


「わかりました。ご無理だけはされないようにお願いいたします。それでは、魔力水に属性を意識せず魔力を流してください」


 言われた通りに魔力を流す……

 始めに渦を巻き、粒が現れ、稲妻が迸り、光を放ち沸騰した。


「なんだコレは……全属性の反応が出ているのか!?」


「こんなの僕のデータにないぞ!!」


 そして最後に……黒い渦が現れ容器内の水が消滅した。


「恐らくですが……」


 老魔術師はそう前置きをすると、淡々とした口調で語り始めた。


「『闇』と『無』この2つが最も適正が高いと思われます」


「『闇』は希少属性としてソコソコ知られているものだが、『無』とはなんだ?」


 原作の悪役シュルケンに、『俺』という異物が介入してしまったバグのようなものだろうか?


「『無』属性は魔力操作だけで行う魔法が多く、それ単体では殆ど目立った効果はありません。」


「地味だな……」


「しかし、メリットもございます。全ての属性を扱うことができるのです」


「!?」


「しかし、消費魔力量は適正を持つモノに比べ凡そ三倍程度必要になり、莫大な魔力を持つモノでなければ通常の属性魔術師のような立ち回りは困難でしょう……」


 やっぱりそんな美味い話はないか……と落胆するのであった……


………

……


 しかし原作において、シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトは魔法……取り分け希少属性である『闇』魔法を得意としており、補助として『聖』魔法と『水』魔法を少し使える程度の魔法アタッカーであった。

 無論、槍や弓と言った武具を使う事も出来るが、あくまでも補助的な扱いでしかない。

 老魔術師は見逃しているが、一つの身体に二つの魂を持つ現在のシュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトは、現状『闇』『無』『光』『水』の四属性を持っている。

 そして『無』属性を手に入れた事で、本来あまり得意としていなかった『光』『水』をより巧く使えるようになった……この些細な変化が及ぼす影響は計り知れない。

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