第6話side回子守メイド
若君――ベーゼヴィヒト公爵家の御子息、シュルケン様に仕え約3年。
上司
シュルケン様の朝は起床後
それが終わると、
学のない私でも判る程、シュルケン様は天才だった。
一度聞けば殆ど忘れない記憶力に、国でも有数の血統……魔法や剣の腕はまだわからないけれど、きっとかなり有望ではないのかしら。
しかしそんなある日、シュルケン様は高熱を出して床に
翌日、すっかり体調が回復されたようでしたが記憶が少し混乱されているようで、鏡を持ってくるように言われました。
悪夢で顔に傷でも付く夢を見たのだろと、同僚の子守メイドと話し合い乳母の許可を得て鏡をお渡ししました。
すると――――
「シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒト……」
――――と意味あり気に自分の名前を呟きました。
私たちは顔を見合わせ、他のメイドから言われていた事を思い出しました。
「お食事はどうされますか?」
「寝るにしても食べた方がいいな……では頂こう……」
と仰られたのでナニーと、シュルケンさまの分を子供部屋の机の上に配膳します。
普段なら噛む事のない神への祈りの言葉を噛み、ナニーの後に続いて祈りの言葉を口にします。
「「――――この場に用意された食物を祝福し、我らの心身を育む糧として下さい」」
祈りの言葉を唱え終えると、シュルケン様は食器を左手に持って匙をパン粥に入れました。
その瞬間。ナニーから叱責が飛びました。
驚いたのか、シュルケン様は手に持っていた食器を机に落とし、パン粥は半分以上机と床に零れてしまいました。
「貴族たるものお皿を手に持つとは何事ですかっ!? 食事中に触っていいのは、ナイフ、フォーク、スプーン、グラス、そしてナプキンだけです。あなたは手の掛からない子だと思っていましたが、大病にかかって弛んでいますよ? 大体病は気からといいまして……」
と、ナニーはお説教モードに突入している。
私たちは急いで、掃除を始めます。
するとシュルケン様は下を向いてボソッとこう呟かれました。
「ああ、そこもヨーロッパ基準なのね……」
はて、『ようろっぱ』とは何でしょうか?
私は頭を振って疑問を振り払うと、零れてしまったパン粥を同僚と一緒に掃除します。
食事が終わると、「仮眠をする」と仰られたので、「快癒祝いで小規模な晩餐会が開かれるそうですがご出席されますか?」と一応聞いて置きます。
すると、「出れると思うが体調次第だ……小規模なと言う事は大規模なモノが行われるのか?」とお尋ねになられました。
「恐らく行われると思います」と、本当はダメなんですが、自身の感想を交え答えます。
「そうか……」と短く答えられると、「ではホットワインを持って来てくれ、生姜と蜂蜜なんかとスパイスを入れてくれ……それと鉛の鍋では作らないでくれ……」と変な事を仰っていました……
晩餐会が終わり、お部屋に戻られた時には同僚の怪我をまだ習っても居ない回復魔法を使い治して見せました。
その話を訊いた私たちは改めて天才だと思いました。
………
……
…
騎士ケイン・フォン・アップルヤード卿は私達のようなメイドからの評判は高い。未婚で下級とはいえど貴族で顔も性格も悪くない。
シュルケンさまの指導役に選ばれた時は、「お近づきになるチャンス!」と思っていたのだが、最初の稽古以降は基本的にシュルケンさまを走らせている。
アップルヤード卿曰く、「騎士にしろ兵士にしろ体力が無くては始まらないかららしい……」
木剣の素振りは最初と走り終わった後に振らせる程度で、子供が好きそうなチャンバラごっこは全然しない。
でもシュルケン様は文句一つ言わない。
私の弟達とシュルケン様は、別の生き物なんじゃないか? と
時々疑いそうになる。そんなハズはないのに……
午前中は武芸を習い。午後は魔法の授業と家庭教師の先生の授業だ。
机を挟んで互いに同じ一冊の本を見ながら、授業を進めていく……基本的には本の模写と、魔法陣の解説と言った座学が主で魔法の実技はあまり行われていない。
理由は単純で現役の魔術師は、騎士団に随行し領内を荒らしまわるモンスター討伐に挑んでおり、現在屋敷にいるのは隠居した魔術師の御老人と、遠征についていけなかった魔術師しかいないのだ。
変な事は教えられないと皆及び腰になっているのは、私の目にも明らかだった。
反面、家庭教師の先生の授業は熱心に受けておりまだ数日目ですが、先生の方が参ってしまいそうなほど熱心に勉強されております。
最近は、『テケリ』と名付けたスライムを相手に遊ぶのを気に入っているようで、棒を投げて取ってこさせたり魔法の授業の一環で作った
スライムが幾ら悪食として知られるモンスターとはいえ、金属を食べさせるのは可哀そうに思う……
村にいる牛馬でも干し草を与えられるんだから、モンスターとは言えシュルケン様のペットなんだから食べてもいいと思うんだけど……
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