分け隔て
町はずれにある、壁の向こう側から音がする。
人が立てる音にも聞こえるし、何か別の生き物が暮らしている音かもしれない。
壁に張り付いて聞き耳を立ててはいるが一向に分からない。そういえばこの向こう側は一体どうなっていたのだろうか。ここに来て長いけれど、気にしたことは無かったなとぼんやりと思った。
小さな疑問でも、一度現れたそれは落ちない染みとなって思考の一端を占拠する。見えない、分からない、知らない何か。想像だけが膨らんで出口も無く頭の中をさまよっていく。知らない頃には戻れない。ひょっとしたら恐ろしいものかもしれない。そう思ってしまえばまた染みがじわじわと広がるような感覚がした。
確かめるべきか、否か。なんとなく、誰にも相談できないまま日が過ぎて、年が過ぎて。音に変化の無い事がいつしか安堵に変わった頃。若者が写した壁の向こう側の写真を見る機会があった。
緊張で震える指先が写真を手にとる。
それはなんてことはない、こちらと変わらぬ街並みが広がるだけのものだった。
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